「あの人、アスぺだから」。空気が読めない、あるいはコミュニケーションが極端に苦手な人に、こんな言葉がぶつけられることがある。しかし「発達障害」と「アスペルガー症候群」は違う疾患だ。そもそも「発達障害」とはなにか。症状とどう向き合うべきなのか。精神科医の岩波明氏が解説する。
※本稿は、岩波明著『うつと発達障害』(青春新書)の一部を再編集したものです。
「大人の発達障害」は何歳くらいに発症するのか
「大人の発達障害」という言葉は、多くの誤解を生んでいます。
第一に、発達障害は生まれつきのものであり、大人になってから発達障害になるわけではありません。
子供の頃は症状が目立たず、社会的な適応に問題がない場合もまれではありません。ケアレスミスが多い、忘れ物が多いなど、何らかの症状はあっても、それが大きなトラブルに発展しない限りは、放置されることがほとんどでしょう。
また、発達障害の症状そのものは、進行性のものではありません。長年にわたり、同じ状態が安定的に続くのが、発達障害の特徴です。
しかし、子供の頃は目立たなかった症状が、大人になって就労し、ストレスの強い状態で「顕在化」することがみられます。
「大人の発達障害」とは、「成人期に達した発達障害」なのです。
症状がなくなるわけではなく、目立たなくなるだけ
これまで医学の世界では、最近までは、発達障害といえば児童期の病気だと考えられていました。医療の対象というより、福祉や教育の対象として捉えられることが多かったのです。
また、小児期の症状は、思春期以降次第に改善すると考えられていました。
ところが近年、成人においても発達障害の症状によって苦労している人が多いことが少しずつ認識されるようになってきました。
特に職場での問題がクローズアップされるようになり、ジャーナリズムも注目するようになり、「大人の発達障害」に関する記事が一気に増えて、専門外来への受診者も急増しているのです。
つまり、「発達障害は、大人になったからといって、症状がなくなるわけではない」のです。本人がうまく対応していて目立たないだけなのです。