自治体は「私学を指導する権限はない」と言うばかり

佐藤さんは腹痛に加えて不眠などの症状も出るようになり、適応障害と診断された。登校できなかったため、学習の遅れを取り戻そうと個別学習指導塾に通い始めてすぐに、転校勧奨を受けたのだ。転校勧奨は高校に入ってからも行われた。この点を学園に問い合わせると、「文科省の通知を知らなかった」との回答だった。

公立学校であれば、学校側によるハラスメントは教育委員会に相談できる。しかし、私立学校の場合は東京都も世田谷区も「私学を指導する権限はない」と言うばかりで、相談窓口はない。佐藤さんは当時の苦しみを次のように語る。

「誰も僕の身に起こったことを信じてくれませんでした。言われた内容が内容だけに、すぐに親に話すこともできず、意を決して母親に話すと、先生がそんなことをするはずがない、と言われてしまいました。被害者であることを否定されたことがつらかったし、苦しかったです。自分は確かにひどいことを言われたはずなのに、そのことすら信じられなくなっていきました」

泣き寝入りしている生徒が、全国にいるはず

佐藤さんは不登校のまま、高校2年生の時から予備校に通って、早稲田大学教育学部に現役合格した。奮起したのは、不登校のままで高校を卒業しても、社会に寄与できない、生きていけないという不安からだった。

「不登校であることは、それだけで社会的立場を失います。パワハラの被害を受けたと手を挙げても、救われることがありません。僕の場合は家族やさまざまな人が助けてくれたおかげで、大学にも合格し、学生としての社会的立場を取り戻すことができました。

しかし、世田谷学園はパワハラの事実を隠蔽し続けており、再発防止策も講じられていません。もしかしたら、僕のように苦しめられている在校生がいる可能性もありますし、声を上げることができないまま泣き寝入りしている生徒が、全国にいるのではないでしょうか。

現状では学校側からハラスメントを受けたときに、相談ができて、対応してもらえる制度があるとは言い難いです。自分の経験からも、生徒が安心して相談できる窓口は、必要だと強く感じています」