ITツールを使い次世代型いじめ
「あのツールがなければ、ここまで早く退職することはなかったです」
自身の経験をこう振り返るのは、2018年4月にベンチャー企業から財閥系大手IT企業に中途入社したものの、19年3月に退職した瀧本あずささん(仮名・30歳)。彼女の主な業務は親会社の財閥グループのシステム案件を一手に引き受ける営業職。1年以内の退社の背景に何があったのか。
「親会社から案件が降ってくるので危機感は薄く、会社は年功序列の緩い雰囲気。だからこそ非効率的な業務や私へのいじめがあったのかも」
瀧本さんが受けたいじめはITツールの中で行われた。
「業務のタスクを社員みんなで管理するタスクツール、顧客管理ツールというものがあります。やるべきことを付箋みたいにリストアップして、それがどれくらい進んでいるのか部署やチームのメンバーでシェアするというものです。例えば、『クライアントA社との商談は、現在アポ打診は通っており、打ち合わせのスケジュール待ち』『B社は見積もりへの返答待ち』といったように進捗を共有できるほか、次に自分がすべきアクションを上司が書き込むケースなど様々です」
基本的には自らのタスクは社員それぞれが自分で書き出してリストアップし、部内でシェアする仕組みだが、いじめられた瀧本さんは、このツールの仕組みを悪用された。
「中途入社した当初から、私が社内の改善点を提案し続けたのが悪かったのか、40代のおつぼね社員に勝手に自分のタスクを増やされてしまったんです。見込みなしのクライアントなのに、私が担当の場合『まだ可能性があるかもしれないから、もう1度顧客に訪問に行け』のように指示され、タスクが追加されてしまうんです」
もちろん、上司でもない同僚女性によるタスクの追加に対し、瀧本さんは猛烈に抗議したという。だが、それが気に食わなかったのかタスクはさらに増やされてしまった。
「例えるなら、もう食べられないのに料理を出され『食べろ』としごきを受けているような状況でしょうか」
抗議が通らなかった主因は、上司を含めた年配社員がこのITツールの使い方がわからず、おつぼね社員に丸投げしていることだった。権限が1人に集中していたため、深刻な事態をほかの社員と共有できなかったのだ。
「ほかにも、顧客向けに自社の最新ITツールの使い方をレクチャーする30人規模のセミナーを実施したとき、会社でレジュメを作成し上司に提出したところ、社内チャットのグループに入っていたそのおつぼね社員が勝手に配色だけ変えて、変更するという嫌がらせを受けました」