不機嫌な態度をまき散らす「不機嫌ハラスメント」、略して「フキハラ」。フキハラをする人は、なぜフキハラをするのか。精神科医で産業医の井上智介さんは「フキハラをする人は、不機嫌な態度を示すことで周りの人をコントロールしようとしている。『不機嫌にふるまうと、相手が自分の思い通りに行動する』という成功体験を得てしまったことが背景にある」という――。
権威の乱用
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「フキハラ上司」は業務効率を下げる

フキハラ=不機嫌ハラスメントとは、不機嫌な態度を周りに示し、相手を不安な気持ちにさせるなどの心理的プレッシャーを与える行為を指します。

まず、職場で起こる典型的なフキハラを見てみましょう。

私がよく耳にするのは、上司がいつも不機嫌をまき散らしているケースです。腕組みをして、眉間にしわを寄せて部下の話を聞き、時々大きなため息をつく。指先で机をトントン叩いてイライラした様子を見せる。こうした態度は、周りに威圧感を与えますし、周りにいる部下は、「自分が何か悪いことをしたのではないか」「ミスをしたのではないか」と不安感や恐怖心を抱きます。

上司がこういった不機嫌な様子だと、部下は報連相をしにくくなります。何か報告しても「それでいいんじゃないの?」など含みのある返答をされたり、「もう、それでいいよ」とトゲのある言い方で返してきたりするので、部下の側は不安な気持ちになってしまいます。このため部下の側は、困ったことや不安なことがあっても気軽に相談できなくなり、コミュニケーションが滞る原因にもなります。当然ながら仕事が滞り、部内の業務効率も下がっていきます。

まわりはびくびくしながら仕事をすることになるので、自信を失ったり、集中力を欠いたりするようになり、メンタルヘルスの悪化につながります。

被害の深刻さが伝わりにくい

フキハラは、パワハラやセクハラとは違い、会社にハラスメントを訴えたりしにくい面があります。誰かに「話の最中に大きなため息をつく」「いつもイライラしている」「トゲのある返事をする」と相談しても、怒鳴られたり暴力を振るわれたりしたわけではないので、その行為の一つひとつはあまり深刻な問題だと受け止められにくく、「考えすぎじゃない?」「上司も忙しくて疲れているんだよ」などと言われて終わりになってしまいます。結局、被害を受けた側の部下は、孤立感を募らせていきます。

私も産業医として、フキハラの被害について相談を受けることがあります。「誰かに相談しましたか?」と聞くと、誰にも相談したことがないと言う人が多いです。明確なパワハラでないだけに、どこに訴えればいいかわからないようです。