
仕事のキャリア形成を阻む“ファミリーストップ”の恐ろしい実態
高林健二さん(仮名・54歳)は、ある地方都市の紳士服店で店長として働いていた。資産家である地元の名家の娘と30代半ばで結婚して20年。2人の子宝に恵まれ、幸せな家庭を築いていた。
一方、勤務先企業の経営は厳しい状況だった。少子化やリモートワークの波が地方都市にも押し寄せ、店舗の売り上げは伸び悩んだ。
高林さんは、長時間労働で安月給でありながら、30年間勤務してきたのは、ひとえに「家族のため」だ。幼少のころから、両親の折り合いが悪く夫婦げんかが絶えない家庭で育った。だからこそ、「自分は幸せな家庭を築きたい」との思いを強く持っている。
実は結婚前から妻の実家である義父母、義兄の猛反対にあった。義父母は娘の結婚相手に向かってこう罵った。
「貧乏人のもとには嫁がせられない。娘を良家に嫁がせる夢があった。私たち夫婦の夢を壊すのか。人の気持ちがわからないのか」
耳を疑うような暴言だが、妻を愛していた高林さんはぐっと堪えた。最終的には、ある条件をのむことで結婚は許された。それは、「(妻の)実家の近くに家を建てること」「(高林さんの)両親とは同居しないこと」「娘とあなた(高林さん)の両親とは没交渉とすること」。
これを自分の両親に話した際に「おまえ(高林さん)が幸せになるなら良いじゃないか」と快く承諾してくれたものの、母親の悲しそうな表情を高林さんは今も覚えている。
結婚後、専業主婦の妻は近郊の実家に毎日入りびたり、子供はすっかり義父母になついた。給料は全て妻が管理し、自分は毎月3万円の小遣いを渡される生活が続いていたものの、かわいい子供たちに囲まれた日々に幸せを感じていた
家族のために働くことは、家族の気持ちを事前に察し、伏して従うこと。高林さんは、いつのまにか、そう思い込んでいた。今思えば、マインドコントロールであったのかもしれない。