女子選手は高卒と同時に成長がピタリと止まる理由
これは日本選手権のチャンピオンになっても同様だ。
1990年以降、“高校生V”に輝いた選手は6人いる。しかし、高校卒業してから同種目を再び制した選手はいないのだ(※)。
※女子100mは三木まどか(姫路商高/1990年)、同200mは柿沼和恵(埼玉栄高/1992年)と鈴木智実(市邨学園高/1997年)。同400mは久保田和恵(群馬女子短大附高/1990年)、杉浦はる香(浜松市立高/2013年)、松本奈菜子(浜松市立高/2014年)。なお柿沼だけは400mで4度の優勝を飾っている。
人間の成長過程を考えれば、多少の波はあるとしても、20代中盤まで右肩上がりで推移するはずだが、女子選手は高校卒業と同時にピタリと止まってしまうケースが少なくない。
その原因はどこにあるのだろうか。
ひとつは「環境の変化」があるだろう。特に大きいと考えられるのが指導者の変更だ。女子選手は男子選手と比べて、指導者への「依存度」が強い傾向にある。そのため、指導者とのマッチングがうまくいかないと、ガタガタと崩れてしまう。しかも、高校時代はうまくいっていたため、最初につまずくと、その後の修復は簡単ではない。
高校と大学の指導者が「伸び悩みの理由」の責任を押し付け合い
また高校では指導者が体重を管理するなど、徹底指導することが多いが、大学では自主性に任せる部分も大きくなる。強豪校の男子長距離チームは寮が完備されているだけでなく、栄養管理された食事が提供される。女子は専門の寮があるチームは少なく、食事も各自に委ねられることが多い。ひとり暮らしの場合、授業と練習に加えて、食生活もうまくコントロールするのは難しいようだ。栄養バランスが崩れることで、故障が増えて、なかには体重が増加してしまう選手もいる。
男子短距離の活況は、サニブラウン・ハキーム(フロリダ大)、桐生祥秀(日本生命)、山縣亮太(ナイキ)ら高校時代に歴代上位の記録を残した逸材がさらにタイムを伸ばしてきたことにある。女子短距離は、その逆。「スーパー高校生」と呼ばれるような選手たちが、高校卒業後に消えてしまったことが、低迷につながっているのだ。
しかも、良くないのは、高校卒業後に伸びないのを、高校・大学の指導者が双方のせいにしていることだ。高校の指導者は「大学の指導が良くない」と話し、大学の指導者は「高校時代に練習をやりすぎている」という話をよく耳にする。
また夏に開催されるインターハイで燃え尽きてしまう選手も少なくない。5日間というスケジュールのなかで多い選手だと、個人2種目、4×100mリレー、4×400mリレーの4種目に出場。短距離種目は予選、準決勝、決勝の3ラウンド制なので、最大12レースを走ることになる。
総合優勝を目指す学校では、エースの走りがカギを握る。監督が無理やり走らせるケースもあるが、チームのために本人が走りたがることが多い。そして、感動が大きくなると、その反動も大きい。それは高校卒業後のバーンアウトにつながっていく。
今のままでは、誰もハッピーではない。同じ過ちを繰り返さないためにも、“現在”ではなく、選手の“未来”を優先させるような指導に変えていく必要があるのではないだろうか。