【宮内】一番の目的が金儲けだと、株式上場がゴールになってしまう。それは情けない話です。上場はあくまでも成長のための手段であって、そこから何を成し遂げるかが大事ですから。

ファーストリテイリング 会長兼社長 柳井 正氏

【柳井】IPOが“引退興行”で、小銭をつくってどうするんだと。これはマスコミも悪いですよ。若い起業家を持ち上げて、勘違いさせてしまう。そういう僕も、若いときは「企業は社会の公器」ということを言葉として知っていただけです。

ただ、お二人と違って経営の大学院に行ってないから、創業者の伝記をはじめ、いろいろな本を読んで勉強しました。そうしたら、大経営者はほとんどみんな同じ考え方をしているとわかった。

もちろん世の中は変化するし、人間は環境の動物だから、その人の背景によって考え方も違う。ですから、自分は何かということを発見することが大切です。それが活かされないと、経営はうまくいかない。

【宮内】オリックスは社員13人のベンチャー企業として生まれました。「リースはビジネスとして成立するのか」というところから始まって、利益は出るか、配当はできるか、上場できるかというように、一つずつ上の目標を達成していくといった積み重ねでここまで成長してきました。

会社がどのステージにあるかで目標は変わります。ビジネスを軌道に乗せて収益化したい、海外にも挑戦したいといったように、思いは少しずつ変化するんですね。でも、企業というのは社会にいいものを生み出すためにリスクを取るもので、うまくいけばリターンは後からついてくるという考えは変わらなかった。やみくもにたくさん儲けてやろうとは思わなかったです。

大きな儲けと社会の利益どちらをとるか

【柳井】儲かりすぎはダメですよ。それはフロックで、たまたま。やっぱり社会にとってプラスになるようなことでないかぎり、成長は続きません。

【宮内】そうですね。新規事業を始める際にも、社会的に支持を得られないと思うことには、手を出しませんでした。利益だけを追求していたらやったかもしれませんが、「ちょっと違うな」と。

【柳井】金融は、特に信用第一ですからね。

【宮内】社会から信用されないような事業では、短期的には多くの利益を生み出せても、いずれ社会的批判を受けて立ち行かなくなるリスクがある。たとえば高金利の消費者ローンなどがそうです。そこは慎重に判断しないといけません。

【入山】興味深い決断ですね。その「やらない」という判断の決め手は、何だったのでしょうか。