フランスの性教育は国家政策のひとつ
一方フランスの性教育は、日本のそれより範囲が広く、内容も異なっている。幼児が自衛するための方法を教えることも含まれるし、中学生・高校生向けには日本と同様、生殖の仕組みやそのための体、避妊や性感染症について学ぶ授業ももちろんある。ここでは「性教育」とはどのように定義され、何を教えるべき教育と考えられているのだろうか。
その答えは、日本の文科省に相当する省庁「国家教育省」の公式ウェブサイトで簡単に見つかった。「性に関する教育」と題されたA4・4ページ相当のサイトの中に、現在フランスの教育機関で行われている性教育の概略が整理されており、誰でも閲覧できるようになっているのだ。
冒頭には、性教育を定義する以下の一文がある。
(出典:フランス国家教育省公式サイトより筆者訳)
続いて、性教育は以下の3つの観点から、「国家政策に含まれる」と述べられる。
2. 性犯罪・性差別・同性愛差別言動への対策
3. 男女平等の促進
そして上記の国家政策に即するため、公教育では5つの狙いを定めている。
――多次元に渡る「性」の事象を区別・認識させる:生物学面・情愛面・文化面・倫理面・社会面・法律面
――批判精神を養う
――個人・団体の両方で、責任のある言動を促進する
――学校外に求められる的確な情報源や支援先・援助先を周知する
倫理公民では「性暴力に関する法の成り立ち」を調べる
続いて、この5つの狙いを各学校課程でどのように教えていくかが述べられ、そのための指導指針や副教材へのリンクが提示される。一見して性教育の重要性と教育的視野の広さが感じられる上、どの説明も分かりやすく、具体的だ。
日本から見て特に興味深いのは、性教育が「ひとつの教科」として考えられていないことだろう。性に関する知識は、生命科学・倫理公民・地理歴史・国語などの各教科の中で、横断的に取り上げるよう定められている。これらの授業では「生徒が発言する対話形式」が指定され教員が一方向的に持論を展開するのは禁止されていることも、大きな違いだ。
たとえば生命科学では、生徒たちに現時点での生殖に関する知識を語らせ、そこから避妊や性病予防について情報を与えていく。倫理公民では性マイノリティー差別や性暴力に関する法の成り立ちを生徒に調べさせ、その是非を議論する。国語では「性」に関して知っている表現を生徒に列挙させたのち、その意味を教師とともに考える。中学・高校ではこうして「性に関する授業」が年間少なくとも3回は行われ、授業には外部の専門家を招くこともある。