「自分と他人の身体を大切にすること」を伝える

「私の関わる授業の大半は中学校と高校で、生殖に関する知識のほか、性的同意の重要性や権利について、資料を使いながら伝えています。小学校での性教育は特定の授業はなく、『人間には男女の性差があるが平等であること』と『自分と他人の体を大切にすること』を、機会があるごとに伝える手法が主流です」

そう話すのは、非営利団体「プランニング・ファミリアル(家族計画)」から学校に派遣され、講師を務めているジョルゴス・クルラスさん。1967年に創設された歴史的な性教育・男女平等推進団体で、避妊や中絶の法制化にも貢献し、この分野の政策提言なども行っている。

フランスの公教育で、「性に関する教育」が正式に組み込まれたのは1973年。それ以前からも生殖や性病予防に関する教育は行われていたが、社会の変化に従って変革・補完しつつ、現在の形になった。近年の分水嶺は、2001年の教育法典改正による性教育義務化、2013年の公教育改革での男女平等教育の強化などだ。

男女格差の是正は前フランソワ・オランド大統領、現エマニュエル・マクロン大統領とも任期中の主要ミッションとして掲げており、その実現のためには「性」の包括的で客観的な知識を、できるだけ早い時期から与えるべし、と、社会的合意が相成った。また昨年には小学校での性教育を再定義する大臣通達が出され、教育指針がさらに詳細に示されている。

フランスでの「性に関する教育」は満3歳から始まる

これらの「性に関する授業」の狙いは、フランスの国家教育省が関わる全ての教育機関を対象としている。授業が義務となっている小・中・高校の他、大学や専門学校、そして満3歳の年からほぼ全ての子どもが3年間通う公立幼稚園「保育学校」もその対象だ。

保育学校では「性に関する授業」はなく、もちろん生殖に関わることなど、年齢にそぐわない情報は与えない。が、「自分と他人の体を大切にすること」は、学校での生活のあらゆる時間に伝えられる。たとえばトイレの時間やプール遊びの際に、「男女には体の部位に違いがあること」「違いはあっても平等であること」「違う部分は体の大事な場所なので、水遊びの時も水着で守ること」「その部分を他人が見たり触ったりしてはいけないこと」などを教えるのだそうだ。