目下の課題はいかに複数のAIを協調させるか

現在実用化されているAIは、特定の用途、言い換えると一つのアルゴリズム(特定の問題を解く一連の数式や手順)を使った問題解決をめざすものが中心である。これからは、それぞれのAIが個別に進化していくだけでなく、自動運転などのように、問題解決に複数のAIが協力していく世界を見据えて戦略を考える必要がある。

だからと言って、例えば「工場をAIで自動化する」といった漠然とした大きな問題をドーンと提示し、解決しようとする「ドーン案件」になってしまってはプロジェクトは前に進まない。大き過ぎず、小さ過ぎず、実行可能な粒度に設定し、小さく始め、「アジャイル」な体制で試行錯誤をしながら早く改善させることが肝要である。

アジャイルとは、英語で「機敏な」「素早い」というような意味の言葉だ。破壊的イノベーションが次々と起こる現代では、綿密な計画に基づいてものごとを進めていく従来型のやり方では、時間がかかるばかりか、時間をかけた分だけ、変化し続ける顧客のニーズにそぐわないものができてしまう恐れもある。

最初から完成形を目指すのではなく、必要最小限のプロダクトを作り、まずはいち早く市場にリリースする。リリースしたら、顧客からのフィードバックを集めて、それを元に改良し、再び市場に問う。これを高速で回すことで、変化する市場ニーズに対応しながら、最終的に目指すプロダクトやサービスをスピーディーに開発していく手法だ。AIを用いたビジネスでは、集めたデータ量が精度に直結するため、スピードは特に重要となる。

AI活用のリーダー企業は、上記のようなアジャイルな体制でクイックウィンを示しながら、特定のAIによる成果を既に具現化している。目下の課題は、いかに複数のAIを協調させるかに移っているのだ。

アマゾンに見る複数AIの協調の好例

複数のAIを組み込み、複数の課題をサポートする仕組みとして、アマゾンがよい例となるので簡単に説明しておこう。同社は販売予測システム、在庫予測システム、サプライチェーン最適化、レコメンデーションエンジン、収益最適化システムなど20以上のデータアナリティクスシステムを持っている。これらのシステムはシステム同士で相互に、また戦略に携わる人材とも結びつき、全体として統合された円滑な仕組みができている。

例えば、販売予測システムがある商品の人気が高まっていることを感知したら、次のような変化を引き起こす。在庫予測が更新され、それによりサプライチェーンシステムが倉庫全体にわたり在庫を最適化する。レコメンデーションエンジンがその商品をより多くプッシュし、収益最適化システムがプライシングを最適化する。こうした変化により販売予測が更新される。

2030年ごろまでには、複数のAIが協調する仕組みをより多くの企業が構築することで、かなり高度な応用が可能になるだろう。