課題設定を誤らない体制づくり

次にAIを活用する際に、マネジメント層が心得るべきポイントについて考えてみよう。

AIを使ってビジネス・インパクトを生み出すには、「課題を定義する」「打ち手の仮説を持つ」「分析する」「改善サイクルを回す」というプロセスをらせん状に繰り返して進化させていく必要がある。そのなかで、最初の「課題の定義」を誤ってしまうケースは意外なほど多い(図表2)。

例えば「AIに自動運転をさせたい」という場合、課題は安全性にあるのか、快適さか、目的地までの所要時間かによって打ち手は異なる。「AIを使ってお客様の継続率を上げたい」という場合も、具体的にどのような顧客を想定し、誰がアクションするのかといったところまで加味して課題設定をしないと出口が見えなくなり、迷走してしまう。

課題設定を誤らないためには、チームリーダーなどの意思決定者がAIに対する理解を深める努力を怠らないことが肝心だ。意思決定者の理解が不十分なために目標設定を誤り、誤った目標に向かって、データサイエンティストが何の疑問も抱かずに、一生懸命パズルを解いているケースも散見される。

また、「AI等の技術のわかる人材」と「ビジネスを熟知した人材」の両方を含むチームを編成することも重要だ(図表3)。

AIの専門家を雇ったが何も生まれない、という悩みを持つ企業がある。AIがわかる人材は往々にしてビジネスへの関心が低く、適切な課題設定ができないことが多い。逆に、ビジネスがわかる人材はAIを理解しようとしない。私たちが変革を支援する際にも、ビジネスの現場からは必ずといっていいほど「AIなんかよりも自分たちの方がわかっている」といった声が聞こえてくる。

両者の間に溝をつくらないためにも、アジャイルな体制の中で密に連携し、相互理解を深めていくことが重要になる。AIを駆使するデータサイエンティストはAIとは何か、AIで何ができるのかについて、ビジネス担当者はビジネス課題の状況について、早い段階で、お互いにできるだけわかりやすく説明しておく必要がある。