マネジャーは「あがり」のポストではない

経営トップや上司のそうした姿を直接、間接に見聞きすれば、その下にいる社員たちは放っておいても自己の成長に向けて貪欲に学び続けます。

逆に、部下にはうるさく指導的なことをしたり言ったりするくせに、自分では何も学ぼうとしない経営者や管理職の下では、部下は彼らの言うことに従おうなどと思うはずがありません。

経営者や管理職は、すごろくでいう「あがり」のポストではありません。

ところが、いろいろな企業で役員研修や管理職研修をしていると、たまに「自分は完成した人間である。もう学ぶべきことはない」とでも言いたげな態度を取る人がいます。自分は仕事の能力や人格などすべての面において、部下よりも優れているから管理職になっているのだ、と誤解している人の典型です。

優れたマネジャーは皆「謙虚な学習者」

そうした誤解をさせてしまうような昇進・昇格基準を持つ日本企業の人事制度にも問題はありますが、管理職としての意識転換ができていない上司の側にも問題はあります。

普通に考えれば、組織の上位階層の職務になればなるほど、その果たすべき責任範囲と重さは大きくなるはずですから、部下たちよりも学ばなければならないことは多くなるはずです。

求められる人材としてのスペックも、階層が変わればそれに伴って異なりますから、職務を全うするために自分を成長させて変化(自己変容)させられなければなりません。

また、過去の経験や蓄積した知識、スキルなどが、今日あるいは明日、未来においても通用するものばかりとは限らないということも、学び続けることが必要である理由のひとつです。環境の変化によって、自分の知識・スキルが通用しなくなることがありますし、むしろ偏見や先入観などといったバイアスの元となり得る危険性さえあるのです。

優れたマネジャーは皆「謙虚な学習者」です。部下を持つ人は誰でも、自分が責任を持つ職務で成功を収めるためにも、そして部下の良き模範となるためにも、自己の成長を忘れないでください。

田口 力(たぐち・ちから)
上智大学グローバル教育センター 非常勤講師
1960年、茨城県生まれ。83年早稲田大学卒業。政府系シンクタンク、IT企業の企業内大学にて職能別・階層別研修や幹部育成選抜研修の企画・講師などに従事。2007年GE入社。14年に退社し、TLCOを設立。04年、一橋大学大学院商学研究科経営学修士コース修了(MBA)。
(写真=iStock.com)
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