子育て中の従業員のアイデア「キッズライス」

たとえば、未就学児のお子様への「キッズライス」サービスは、子育て中の従業員みんなからのアイデアでした。

子どもはお腹が空くと、ぐずったり泣き出したりしてしまうことがよくあります。注文して料理が出てくるまでの時間、たった10分でも待つことは大変です。料理が出てきても、熱くてすぐ食べられないこともあります。お店でずっと泣きベソをかかれてしまうと、親御さんも気が気ではありません。

そこで、席に着かれてお茶を提供する際に「キッズライスはいかがですか?」とご案内して、はじめに子ども用お茶碗1杯分のごはんを無料でサービスすることにしました。このサービスは、お子様連れのお客様に大変喜ばれています。

こんな事例があったとき、わたしは本当に嬉しくて、大げさなくらいに褒めます。その人にだけでなく、「ちょっとみんな聞いて! ○さんがこんなことしてくれたんよ! すごくない?」と、周りにも言います。

「自分がマイノリティだ」と感じた人はやさしくなれる

その人が勇気を出して、誰かの力になってくれたこと。

それを周りも評価して、「今度は自分もやってみよう」と思ってくれる。そうやって、思いやりの空気が循環していきます。

わたしが従業員と接して感じるのは、自分がマイノリティだ、と感じた経験のある人は、どんな人に対しても思いやり、やさしく接することができるということ。

中村朱美『売上を、減らそう。たどりついたのは業績至上主義からの解放』(ライツ社)

きっと従業員の多くが、少なからず「こんな自分でも受けていいんだろうか」という思いを持って、勇気を出して佰食屋へ応募してくれたと思うのです。

そんな彼ら彼女らに対して、面接を通してじっくりと向き合い、その人が大切にしてきた思いを引き出し、仲間としてやっていけると確信すれば、わたしは面接の最後に、その日その場で、まっすぐにこう伝えます。

「わたしはあなたと働きたいです。佰食屋で一緒に働いてくれませんか?」。

たくさんの従業員から「あのときは、涙が出るほど嬉しかった」「自分を認めてもらえた気がした」と、後から打ち明けられます。わたしからすると、「よくぞ佰食屋を見つけてくれてありがとう」という気持ちです。

誰一人として、「わたしなんか」「自分なんてどうせ」と卑屈になることなんてない。みんなそれぞれ違ういいところがある――。

それは、もっと世の中に誇っていいことだと思うのです。

中村朱美(なかむら・あけみ)
「国産牛ステーキ丼専門店 佰食屋」代表
1984年、京都府生まれ。2012年に「1日100食限定」をコンセプトに「国産牛ステーキ丼専門店 佰食屋」を開業。行列のできる超人気店にもかかわらず「どれだけ売れても1日100食限定」「営業わずか3時間半」「飲食店でも残業ゼロ」というビジネスモデルを実現。また、多様な人材の雇用を促進する取り組みが評価され「新・ダイバーシティ 経営企業100選」に選出。2019年に日経WOMAN「ウーマン・オブ・ザ・イヤー大賞」を受賞。6月に初の著書『売上を、減らそう。』(ライツ社)を出版。
(写真=iStock.com)
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