なぜ「長時間労働は当たり前」になっているのか

これは佰食屋でないと実現できないことなのでしょうか。あるいは、京都だからこそ可能となっている実例なのでしょうか。

講演会でも「うちは業種も規模も違うから無理」「会社で導入するとなると難しい」そんなことを口々に言われます。では、そもそも経営者はなぜ、従業員に残業を強いているのでしょうか。従業員もなぜ、「長時間働くのが当たり前」だと考えているのでしょうか。

日本の労働基準法では、こう定められています。

・使用者は、原則として、1日に8時間、1週間に40時間を超えて労働させてはいけません。

これは、国が定めた「国民が適切に働ける条件」です。それなら、この基準内で、そもそも就業時間内に利益を出せない商品とか企画ってダメじゃないですか。

基準を大幅に超えて、従業員が必死に働いて維持している商品やサービスは、たとえ多くの人に支持されて、たくさん売れたとしても、「誰かが犠牲になっている」という事実は消せません。

就業時間内に利益が出せない事業なんてやめてしまえばいい、と思います。

自分がやりたくないことは従業員にさせない

「人を雇用する」ことは、その人の人生はもちろんのこと、その人の家族や大切な人の幸せまで面倒を見る、ということです。

果たして、そこまでの覚悟を持った経営者が、どれほどいるのでしょうか。

「従業員はせいぜい頑張って、稼いでくれたらええねん」「営業時間を伸ばせば伸ばすほど、売上は上がる。なんとか頑張ってもらおう」。そう考える経営者の、どれほど多いことか。そんな経営者を見ると、こうツッコミたくなります。

「自分がやりたくないことを、なんで人にやらせようとするん?」

わたしは、絶対に自分がやりたくないことを、従業員にさせたくありません。

わたしが絶対にやりたくないことは、人のせいで残業させられること。18時以降働くこと。京都以外に転勤すること。だからこそ、佰食屋の「1日100食売り切って、早く帰る」仕組みはできました。

中村朱美(なかむら・あけみ)
「国産牛ステーキ丼専門店 佰食屋」代表
1984年、京都府生まれ。2012年に「1日100食限定」をコンセプトに「国産牛ステーキ丼専門店 佰食屋」を開業。行列のできる超人気店にもかかわらず「どれだけ売れても1日100食限定」「営業わずか3時間半」「飲食店でも残業ゼロ」というビジネスモデルを実現。また、多様な人材の雇用を促進する取り組みが評価され「新・ダイバーシティ 経営企業100選」に選出。2019年に日経WOMAN「ウーマン・オブ・ザ・イヤー大賞」を受賞。6月に初の著書『売上を、減らそう。』(ライツ社)を出版。
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