営業時間は3時間半、17時には従業員が帰る

朝の9時30分。ちらほらお客様が来られます。11時の開店なのに、どうしてそんなに早く?

答えは、佰食屋がお配りしている「整理券」です。京都へは国内のみならず、海外からもたくさんのお客様が来られます。観光客の方も「佰食屋のステーキ丼を食べたい」と、わざわざお店にいらっしゃるのです。

お客様の大切な時間を、並ぶために費やしてしまうのはもったいない。そんな思いから、佰食屋では整理券を配り、「〇時〇分までにお越しください」とご案内しています。すると、待っている間も有意義に過ごしていただくことができます。

11時に開店。整理券を持ったお客様が続々と来られます。店内はあっという間に満席となり、その後ずっと客足は途絶えません。

14時30分。最後のお客様が食べ終わるのを待つのみです。お客様をお見送りして、本日の営業は以上。あとは片づけをして、みんなでまかないを食べて帰るだけです。

17時。従業員が帰りはじめます。どんなに忙しいときでも、夕方18時までには退勤できます。佰食屋の目標は、とてもシンプルです。本当においしいものを100食売り切って、早く帰ろう。たったそれだけです。

「家族揃って晩ごはんを食べられる」会社

「従業員が働きやすい会社」と「会社として成り立つ経営」を両立させるには、どうしたらいいのでしょうか。

「どんなにすばらしい理念があったとしても、会社を存続させるためには、ビジネスをスケールさせ、利益を追求することが重要だ」。本音では、そう考える経営者は多いでしょう。「前年比を更新して、売上を増やしていこう」「そのためには、複数店舗を展開して、仕入コストを安くしていこう」。そう考えるのが、いわゆる一般的な経営者の仕事だと思います。

中村朱美『売上を、減らそう。たどりついたのは業績至上主義からの解放』(ライツ社)

でもわたしは、その仕事を放棄しました。つまり、「売上増」や「多店舗展開」を捨てたのです。

むしろ、いまは、もう少し減らしてもいいのではないか、「3店舗で1億円ちょっと売り上げる」くらいがちょうどいいのではないか、と考えているくらいです。

会社の売上がどんなに伸びても、従業員が忙しくなって、働くことがしんどくなってしまったら、なんの意味もありません。しかも、業績が上向いたからといって、従業員にすぐ還元してくれる会社は、そう多くはありませんよね。

わたしも会社員時代、自分が成果を上げても、思うように給与は上がらず、「なんのために働いているのだろう」と心がすり減ることがありました。

利益を追求するより、わたしたち自身が「本当に働きたいと思える会社」をつくろう。佰食屋をはじめたとき、夫と二人でそう決めました。そして、本当に働きたいと思える会社の条件は、「家族みんなで揃って晩ごはんを食べられること」。

それが、わたしたちにとって大切なことだったのです。

中村朱美(なかむら・あけみ)
「国産牛ステーキ丼専門店 佰食屋」代表
1984年、京都府生まれ。2012年に「1日100食限定」をコンセプトに「国産牛ステーキ丼専門店 佰食屋」を開業。行列のできる超人気店にもかかわらず「どれだけ売れても1日100食限定」「営業わずか3時間半」「飲食店でも残業ゼロ」というビジネスモデルを実現。また、多様な人材の雇用を促進する取り組みが評価され「新・ダイバーシティ 経営企業100選」に選出。2019年に日経WOMAN「ウーマン・オブ・ザ・イヤー大賞」を受賞。6月に初の著書『売上を、減らそう。』(ライツ社)を出版。
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