インセンティブは「早く売れたら早く帰れる」

「飲食店」と聞くと、「勤務時間が長い」「土日は休めない」「ギリギリの人数でお店を回している」といった大変なイメージを持つ人は多いでしょう。わたしも、同じイメージでした。

飲食店が儲かるのは土日です。でも、従業員からすれば平日より、お客様がたくさん来られる土日のほうが大変です。それなのに、土日に働いたからといって給与が高くなるわけではないし、閉店間際にお客様が来られても、「また今日も帰る時間が遅くなる」としんどくなるだけ。

つまり、どれだけ頑張っても対価が得られにくいのです。

これって、おかしくないですか?

長時間労働は当たり前、慢性的な人手不足。でも、どうせやるなら、自分が嫌なことを従業員にはさせない会社をつくりたい。

会社員なら通常、セールスとしてたくさん売ればインセンティブがつきます。だから同じように、飲食店にもなにかインセンティブのような「頑張ったら頑張ったぶんだけ自分に返ってくる仕組み」をつくれないだろうか。

そこで決めたのが、「1日100食」という上限でした。1日に販売する数を決めて、「早く売り切ることができたら早く帰れる」となったら、みんな無理なく働けるのではないか、と思ったのです。

出した答えは「売上をギリギリまで減らそう」

「100食以上売ったら?」「夜も売ったほうが儲かるのでは?」。

そんなこと、何回も言われました。儲かるかどうかは別として、たしかに売上は上がるでしょう。

でも、ちょっと待ってください。そもそも、なぜ会社は売上増を目指さなくてはならないのでしょうか。従業員のため? 会社のため? 社会のため? 実際のところ、経営者が「自分のため」に売上増を目指している、というのが多くの場合の真実ではないでしょうか。

売上を増やして、自己資金を貯めておかないと、いざというときに不安。いつ景気が傾くかもわからないから、なるべく利益を確保しておこう……。そんな、自分の不安をかき消すために。

「業績至上主義」にわたしは違和感を抱きます。

100食以上売ったら、たくさん来られたお客様をずっとおもてなしし続けなければなりません。それでは、気持ちの余裕がなくなります。夜に営業したら勤務時間が長くなります。そのわりに、そこまで大きな儲けは得られません。

佰食屋は、お客様のことだけを大切にするのではありません。いちばん大切なのは、「従業員のみんな」です。仕事が終わって帰るとき、外が明るいと、それだけでなんだか嬉しい気持ちになりませんか? そんな気持ちを、従業員のみんなにも味わってほしい。

だから、佰食屋が出した答えは、「売上をギリギリまで減らそう」でした。