「伝説の鯉漁師」に交渉のコツを学ぶ
孫社長が“これこそ交渉のコツ”と引き合いに出す「鯉取りまあしゃん」の挿話がある。福岡県・筑後川に実在した伝説の漁師のことだ。
「その漁師さんは冬、裸の体に油を塗り、火で温めておいてから寒い川の中に潜るんです。川底に寝ていると、温かい体に鯉が向こうから寄ってくる。それを両脇と口で計3匹つかまえて、川から上がるそうです」
狙った相手を追いかけずに引き寄せる「まあしゃん」のように、人を自然と引き寄せる技はあるのか。
「経営者も含めて卓越した人、目上の人というのは、聞かれれば意外と答えてくれるものです。むしろ聞かれるのを待っていると考えたほうがいいでしょう。『こんなことを聞いたら失礼じゃないか』というのは、いかにも考えすぎ。機会を逃さず、恐れずに聞くことが大事です。そしてもし、『こんなふうにしてみたら』とアドバイスされたら、やはりここでも素直に『わかりました』と答えて、すぐに実行することです。それが必ず次につながりますから」
引き寄せたい相手について、三木氏は事前準備を周到に行う。
何か話せるような接点を見つけておく
「まず相手の著書を読むとか、経歴や趣味嗜好、関心事を調べ、相手の仕事の成果に結びつく情報や話題といった“お土産”を考えます。自分の仕事や交友範囲で、何か話せるような接点を見つけておくわけです。興味のある話題であれば、無口な人でも饒舌になりますし、不愛想な人だって身を乗り出してくれます」
相手に対する思いを「お土産」という形で見せることが、相手の心を開くわけだ。いずれにせよ、優れたコミュニケーションに膨大なインプットは必須。「“何となくの雑談”って、ないんですよ」と三木氏が示唆するところは小さくない。
トライオン社長
1972年、福岡県生まれ。東京大学経済学部卒業。三菱地所を経て98年ソフトバンク入社。2000年社長室長。06年ジャパン・フラッグシップ・プロジェクトおよびトライオンを設立し現職。著書に『孫社長のむちゃぶりをすべて解決してきた すごい時間術』ほか多数。