中国は世界のレアアース生産の80%近いシェア
8月19日まで、米国政府は保守などに限ってファーウェイとの取引を認める猶予期間を設けた。それまでに米中が協議を進め、落としどころを見いだせればよいが、状況は楽観できない。5月下旬の時点で、両国は閣僚級の協議に関する日程を詰められていないようだ。その中で首脳会談を行い、対立を解決することは難しい。
特に、中国が電気自動車の開発やデジタル家電の製造に欠かせないセリウムやランタンなどのレアアースの輸出制限を示唆し始めたことは見逃せない。これは、ファーウェイ制裁への対抗措置だ。
中国は世界のレアアース生産の80%近いシェアを持つ。第2位のオーストラリアの生産シェアが15%程度だ。米国はレアアース輸入の80%を中国に依存している。今後、米国は中国以外の国からレアアースを調達し、影響を回避しようとするだろう。
同時に米国は中国に、さらなる圧力をかけようとするはずだ。大統領再選に向けて点数を稼ぎたいトランプ氏は、できるだけ短期間に中国の譲歩を得たい。同氏の性格を考えると、米国は第4弾の制裁関税の発動に加え、中国企業への制裁を拡大する可能性がある。
中国は長期戦に持ち込み、米国が折れるのを待っている
一方、習近平国家主席は交渉を長期戦に持ち込み、米国が折れるのを待ちたい。特に、2020年の米大統領選挙で民主党の有力候補とみられているバイデン氏は「中国は競争相手ではない」との見解を示している。通商摩擦が長引き経済の減速が鮮明化すれば米国の世論はトランプ氏を批判し始めるだろう。習氏は国家資本主義体制のもと景気を支えつつ、時間をかけて米国の強硬姿勢が後退するのを待ち、自らの体裁を保ちたい。
今後の展開を考えると、基本的に両国とも引くに引けない。米国が求める補助金の削減などは中国の経済運営の根幹にかかわる問題だ。IT先端分野を中心に米中の覇権国争いはより激しさを増す恐れがある。米中の対立が激化すれば、両国だけでなく世界経済全体の成長率下振れも避けられない。先行きは楽観できない。
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。