そこでお薦めしたいのがユーモア感にあふれる愉快なことわざです。

1「餡汁(あんじる)より団子汁」は「餡汁」と「案じる(心配する)」の同音を掛けたうえで、団子汁のほうが良いと言っているものです。いつまでもくよくよせずに美味しいもの(団子汁)でも食べなよ、と相手をいたわる心優しい言葉です。

2「冗談とフンドシはまたにしろ」は「又」と「股」を掛け、冗談を言うのはほどほどにしなよという意味。フンドシを股以外にする人はいないでしょうから、言葉の効果は絶大でしょう。

3「憚りながら葉ばかりだ」は意味の異なる「はばかり」をつなげ、葉っぱばかりで花も実もない(=実質がない)ことを表現しています。

ことわざは語呂合わせ等ことばの技が命ともいえます。真正面からぶつけると相手から反発を買いそうな言葉も、冗談交じりに伝えられる、知恵に洒落っ気を加えた言葉でもあるのです。小さなことわざが場の空気を変えることもできます。

『八犬伝』に出ている、ことわざ800前後

使えそうなことわざを探すなら、しっかりとした解説があることわざの本を読むのが近道だと思います。ことわざ辞典のなかで気にいったものをピックアップして覚えてもいいですし、お子さんがいる方なら、「いろはかるた」もお薦めです。古典に親しみを持つ方なら、そこからことわざを探すのも一興でしょう。

古くは『古事記』『日本書紀』の中にもことわざが掲載されていますが、「令和」で話題となった『万葉集』にも、8つ程度見つかります。

そのうち現代でも知られているものは「夏虫の火に入るが如し(=飛んで火にいる夏の虫)」「痛き瘡(キズ)には辛塩そそぐ(=傷口に塩)」「鮑の貝の片思い」の3つです。

江戸時代になると、井原西鶴、近松門左衛門、曲亭馬琴(滝沢馬琴)などの作品に多く用いられています。馬琴の『南総里見八犬伝』には800前後のことわざが出ています。

現代作家、例えば村上春樹さんの作品にも、ことわざをパロディにしたものや、今後ことわざになっていくのではないかと感じる比喩表現が時折見つかります。その作品の1つが『村上かるた うさぎおいしーフランス人』です。「ニラレバの世界にタラレバはない」「アリの世界はなんでもありだ」など、カルタ仕立ての108篇が収録されています。

ことわざを日常的に使えるようになってきたら、村上春樹さんにならって、あなたも気の利いた言葉を使って自分なりのことわざをつくってみてはいかがでしょうか。「注意一秒、怪我一生」などの交通標語などは、世間の人が「いい!」と思って使っていくことで、徐々にことわざとして定着していきました。

いまの時代はSNSで全世界に発信できますから、一般の人のつくった言葉でも流行する可能性は十分あります。あなたのつくった言葉が将来、ことわざとして世間に定着するかもしれませんよ。

品格を上げるポイント:ことわざのユーモアで場の雰囲気を変える

時田昌瑞
ことわざ・いろはカルタ研究家
日本ことわざ文化学会会長 1945年生まれ。早稲田大学文学部卒業。『思わず使ってみたくなる知られざることわざ』『岩波ことわざ辞典』『図説ことわざ事典』ほか著書多数。
(構成=干川美奈子 撮影=小原孝博)
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