▼名言・ことわざを引用

テレビで広がった3つのことわざ

ことわざと初めて関わったのは大学を出て少し経ってから。古い文献を探す過程で江戸時代の洒脱なことわざの絵や滑稽感満載の戯画、そして未知のことわざ資料などに出会い、ことわざの世界に引きつけられました。刀の鍔(つば)や小柄(こづか)、鎧兜などの武具を始め、印籠・根付、各種染織物や焼き物といった生活物品、さらに神社・仏閣の建築彫刻や石像などにも、ことわざを図案化したデザインが施されたり、紋様として描かれていて、途轍もなく多種多様な世界でした。

奇才・河鍋暁斎『狂斎百図』の一部(写真、時田氏蔵)。妖怪と町人が入り乱れ、そこにことわざを添えたユーモラスな戯画集だ。1863(文久3)年~66(慶應2)年にかけてシリーズ刊行され、人気を呼んだ。

現在常用されていることわざは800程度ですが、総数は5万~6万になります。そのうえ、新たに外国から入ってくるもの、現代新たに作り出されるものもありますので、その全容は誰にもわかりません。

ことわざに対して一般的には昔から続く教訓といったイメージがあります。たしかにそうした面はありますが、実は時代と共に変化するものでもあるのです。古いものの代表格が憲法十七条にある「和を以て貴しとす」であれば、戦後生まれのことわざとしては「赤信号みんなで渡れば怖くない」「人の不幸は蜜の味」「亭主元気で留守がいい」などがあります。面白いのはこの3つがどれもテレビによって広がったということなのです。このうち「亭主元気で留守がいい」は80年代に流行したCMのキャッチコピー。もともとは「亭主は達者で留守がいい」ということわざを「亭主元気で」に変えた形で世間に広まったのです。

ことわざを日常会話でうまく使うには多少注意することもあります。まず、どういうことわざを使うかということがあります。情況をちゃんと捉えて表現することは当然ですが、相手との関係性は大事です。目上か仲間うちか、はたまた、目下か、男か女かも気づかう必要があります。例えば、相手の失敗に対して、それが上司であれば「上手の手から水が漏れる」「弘法も筆の誤り」、仲間や目下であれば「猿も木から落ちる」「河童の川流れ」と使い分けるのが無難です。相手が目上や上司であればその方を猿や河童にしてしまったら失礼です。弘法大師のような立派な人になぞらえれば相手の心証を損なうことはないでしょう。

ことわざの選び方にも気を使いたいものです。「勝って兜の緒を締めよ」「石橋も叩いて渡れ」などのような格言や金言などに重なる立派な内容をもつことわざは、相手の反論を許さないところがあり、上から目線になりがちです。もちろん、これとて状況によっては何ら差し支えないこともあるのですが……。