いまどきの中国人が財布を持たない理由
「近いうちに中国はプライバシーという言葉がなくなりますよ」
こういったのは、『週刊現代』の特別編集委員で、中国に詳しい近藤大介だ。彼は中国のキャッシュレス事情を話してくれた後、こう指摘した。
中国はIT先進国である。日本はまだAIが発達すると単純労働だけではなく、税理士や公認会計士までいらなくなると騒いでいる。だが、中国では既にAI弁護士が出現し、事件と類似する判例を見つけ出し、量刑を決めて判決文まで書くことができるようになってきているそうだ。
国民のほとんどの顔を登録しているから、大群衆が集まるイベントに犯罪者が紛れ込んでいても、監視カメラが顔認証で見つけ出す。犯人探しだけではない。コンビニは無人化が進み、客は欲しいものを籠に放り込み、店を出る時カメラに顔を向け、外に出るとスマホに購入額が表示されるという。
中国人は財布を持たない。日本へ旅行に行くときだけ現金が必要だと旅行会社から聞かされ、渋々財布を買うそうだ。日本が新札を発行するというニュースを聞いた中国人は、これからは現金など持ち歩かないのに、日本人はなぜそんなバカな投資をするのだと、笑っていたという。
本当に「共産主義国だからできること」なのか
『世界』6月号で慶應義塾大学の山本龍彦教授が、中国の信用ポイントについてリポートしている。中国では10億人が巨大Eコマース「阿里巴巴(アリババ)」を利用している。この傘下の芝麻信用(セサミクレジット)では、利用者の個人情報だけではなく、最高人民法院が公表している「信用喪失被執行人リスト」も収録され、スコアが高い者は低金利でローンが組めたり、賃貸物件の敷金が不要になったりとさまざまな便益を享受できるが、スコアが低い者は、企業の採用で不利に扱われたり、婚活で冷遇されるなど、差別的な扱いを受ける。
共産主義国だからできることであって、曲がりなりにも民主主義国の日本ではそんなことはできはしない。
実際、住民基本台帳もマイナンバーも、何千億円というカネを使っても普及率は10%程度だ。政府や役人は、マイナンバーを東京オリンピックまでに行き渡らせ、それに銀行口座をひも付けして、個人の資産をすべて把握しようとしているようだが、もくろみ通りにいかないのは、日本人がプライバシーに関心が高いからだろう。
だが、本当にそうだろうか? 先の山本教授によると、みずほ銀行とソフトバンクが立ち上げた「J.Score」が、AIを用いて個人の信用度をスコアリングするサービスを開始しており、NTTドコモ、ヤフー、LINEなども参入を発表しているという。