味覚の擬音表現が飛び抜けて多い

茂木健一郎『なぜ日本の当たり前に世界は熱狂するのか』(KADOKAWA)

たしかに、特にヨーロッパやアメリカでは、日本のように高度に細分化された専門店をほとんど目にしない。フランス料理はどこまでいってもフランス料理だし、たとえある程度の専門店があったとしても、日本ほどの精度とバリエーションを生み出すのは難しいだろう。こうした日本の専門性が、「こだわり」を生む土壌となっているのは間違いない。

さらに、「うま味」という独自の味覚の発見を象徴として、日本食にはかなり細かい食感の分類がある。サクサク、まったり、シャキシャキ、とろ~り……。世界中のどこを探しても、食感のオノマトペにこれだけ数がある国はないだろう。美食の国であるフランスや中国と比べても、やはり日本のオノマトペのバリエーションはずばぬけている。

なぜか。そこには、日本食の多彩な食感や味の領域はもちろん、日本人の極めて繊細な感性が関係しているように思う。自然豊かな日本では古来、四季折々の豊かな食文化が育まれ、食材の旬を楽しむための感性が発達してきた。それらを基盤として、小野さんのようなスペシャリストがもつ「こだわり」精神が育まれたのだ。

オノマトペや感性、つまり「クオリア」については、『なぜ日本の当たり前に世界は熱狂するのか』でも詳しく述べているので、ぜひ参照いただければ幸いである。

茂木健一郎(もぎ・けんいちろう)
脳科学者
1962年東京生まれ。脳科学者。ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。東京大学理学部、法学部を卒業後、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻課程を修了、理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て現職。「クオリア(意識のなかで立ち上がる、数量化できない微妙な質感)」をキーワードとして、脳と心の関係を探求し続けている。『脳と仮想』(2004年、新潮社)で小林秀雄賞を、『今、ここからすべての場所へ』(2009年、筑摩書房)で桑原武夫学芸賞を受賞。
(写真=iStock.com)
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