大切にしてきた日本の美徳とは?
古来、日本には「相手に心を尽くす」ことを美徳とする文化があります。私は学習院女子校時代、秩父宮雍仁親王妃殿下のお母様であられる、松平信子先生から作法訓練を受けました。友人や先輩方には皇族や元華族、元武家も多い環境で育ちましたから、現在、日本人の美徳とされていた伝統的な礼節が失われつつあるのが残念でなりません。
かつての日本は男性の地位が高く、男尊女卑の文化だったと感じている若い方も多いかもしれませんが、礼節をわきまえている殿方は、女性に対しても店員に対しても、決して偉ぶることなく接します。
エレベーターでは我先に降りたりせず、乗降者が知り合いでなくてもドアを押さえます。奥様方のお花の展示会や出身校の同窓会などでは、男性が率先して受付や裏方を引き受けます。お店の方がドアを開けてくださったり、お料理を持ってきてくださったりしたら、自然にお礼の言葉を口にします。飲食店で食事をする際にも、無作法にテーブルを汚したりせず、むしろ懐紙でお皿をさっと拭いて、ゴミは懐紙にくるんでおくなど、ちょっとした気配りをされます。だから、一緒にいる人も気持ちがいいんですね。
こうした礼節は、マナーの形式を学べば身につくものではなく、自分の所作に心や精神が伴っていなければ身につきませんし、お金持ちであることと心が一流であることも同義語ではありません。日本人が大切にしてきた礼節をもって、支払いにとどまらず、心の一流を目指す方が増えることを願っています。
Q:値段を書いたメニューしかない店での接待は?
A:相手の好みを聞き、お勧めメニューを伝える
日本画家・伝統文化研究家
東京都生まれ。学習院女子部卒業。常磐会会員。桜友会会員。随筆家。戸板康二、扇谷正造に師事。皇室記者として執筆活動。華道、香道、日舞、茶道等に造詣が深い。著書に『昭和天皇のお食事』『知っておきたい和菓子のはなし』。