最近、熊谷氏は転んで腕を骨折、患者として自分の病院の看護師の仕事ぶりを見る機会があった。「新人の常勤看護師がリハビリの説明をしてくれたのですが、後ろからパートのベテラン看護師が新人を指導しているんです。パートだからといって引け目を感じず一生懸命指導している様子を見て嬉しかったです。看護師は専門家集団ですから、力量さえあれば雇用形態は何でもいい。そしてキャリアがあり技量のある看護師が、後輩を指導していくことが大切なんです」(熊谷氏)。
パートや派遣の看護師が共存することは、常勤職員にとってもプラスになる。将来ライフスタイルが変化した場合に、違う雇用形態でも、やりがいを持って働き続けることができるという例が、目の前にあることは心強い。常勤職員が、専門分野の勉強をするために一時的にパートに変わったケースもあった。逆に、派遣やパートの看護師が、常勤を希望することもあるという。
看護師が職場に求めるものと、病院が看護師に提供できるもののギャップが狭まらないと、定着率は上がらず、看護師不足は解決できない。東部病院は、そのギャップを埋めることができた一つの例だ。
日本看護協会が07年に行った調査によると、看護師の定着対策に効果があった施策として、「夜勤専従、パートタイマー、短時間勤務導入などによる多様な勤務形態の導入」を挙げた病院が7割に上った。次いで「子育て支援策の充実」「教育研修体制の充実」の効果が高かった。東部病院の施策とも合致する。
診療報酬の改定への対応、患者サービスの向上、医療事故の防止などのためには、質の高い看護師の確保が必須だ。これは病院経営に直結し、対応できない病院はどんどん潰れていく時代になっている。
西川氏も「看護師は現在、超売り手市場です。『月何回でも夜勤ができて、仕事だけに命を懸けている人でないと採らない』と言っている病院には看護師が来ません。柔軟に、さまざまなワークスタイルを認めて看護師を増やさないと、結局今いる看護師も疲れて辞めてしまうという負のスパイラルに陥ります」と話す。
一般企業にもいえることだが、経営側の都合を押し付けていては、優秀な人材の確保はできないのだ。