「検査課」は出世コースとは無縁の傍流部署だった
生産部門の言いなりにならない独立性が求められるが、同社の検査課は生産部門と一体であり、独立性はなかった。
その結果、生産部門から無理難題を吹っかけられても逆らえない雰囲気があり、しかも検査課自体がいわゆる出世コースとは無縁の傍流部署であった。報告書ではこう書かれている。
「社内で完成検査の重要性が理解されておらず、無駄な業務であると誤って受け止める風潮があったことは、検査課が他部署からの不適切と思われる要請に対して毅然とした対応をとることができなかったことの一因となっていたものと考えられる。また、伝統的に、部長級以上の役職者に登用される者は技術開発または生産部門の出身者の割合が比較的多く、完成検査部門の経験者が必ずしも多くない傾向にあることは、検査課の社内での位置付けを窺わせる側面がある」
そうであれば検査課に配属された社員は、業務に対する士気が高まらないどころか、モチベーションの低下をもたらすだろう。
ここに左遷されたら二度と這い上がれない「墓場」
しかも「他部署から検査課に異動してくる従業員の中には、完成検査業務に対する適性を備えていない者が含まれていた場合がある」とも言っている。
いったいどんな人なのか。報告書はこう述べている。
「このような人材は、検査補助者教育を受けたとしても十分な技能を修得できず、検査員に任命された後も他の検査員と同等の業務をこなすことができないという趣旨の供述や、このような適性を備えていない検査員による作業の遅れが他の検査員の時間的余裕を奪い、効率的な検査業務を阻害したという趣旨の供述もあった」
適性を欠いた社員を検査課に配属させたということは、おそらくどの部署でも使えない人材であり、いわゆる左遷部署的な扱いを受けていたのではないか。
報告書には「一旦検査課に配属された検査員は、基本的には、当該工場の他部署や他の工場に異動することは少なく、人事のローテーションは活発ではなかった」とある。
筆者には、左遷されたら二度と這い上がれない墓場のような部署、というように読める。他部署の社員もそういう目で見ていた可能性があるのではないか。だからこそ検査課を恐れることはなく、無理難題を言いたい放題だった。報告書はヒアリング結果についてこう述べている。
「複数の検査員が、車両の製造を担当する完成課から、完成検査の完了を急(せ)かされたこと、完成課から不良をなかったことにしてほしいと要求されたこと、不良であるとして完成課に戻したら完成課から苦情があった等を供述している」