スズキのような労働環境で「働き方改革」を実施したら……
業務の効率化と称して単純に人を減らせば、残った社員の負荷は増大する。検査課だけではなく、工場の多くの社員が疲弊していただろう。
もし、こんな環境下で残業削減などの「働き方改革」を実施したらどんな事態に発展するのか、想像するだけでも恐ろしいものがある。
働き方改革では従業員の負担軽減よりも、生産性や効率性を重視する企業も多い。仮に人員が不足している職場で、さらに上から操業時間を減らすように指示されたらどうなるのか。負担軽減どころか、従業員の疲労度はさらに高まるだろう。
実際に残業規制によって仕事が忙しくなり、職場のコミュニケーションも減ったという声もある。あるいは人を増やせない以上、名目上、労働時間は減ったことにして、実際はサービス残業が増加する事態になりかねない。
働き方改革と言いながら従業員の負担が増し、さらには違法残業が横行する可能性がある。
いずれにしてもこうした作業環境では製品の不具合や不良品の増加は避けられないだろう。しかも最終的にチェックする検査課が機能不全に陥っていたら、最終的にその代償を払うのは私たちユーザーということになる。
スズキは『下町ロケット(ヤタガラス編)』の帝国重工そっくり
こんなことを考えていたら、テレビドラマ『下町ロケット(ヤタガラス編)』に登場する帝国重工を思い出した。
次期社長候補の的場俊一取締役(神田正輝)が、農業イベントに間に合わせるために部下に対して最新鋭の無人トラクターの製造を急がせる。そして「試作段階なので参加するのは無理」との現場の声を無視し、ゴリ押ししてイベント会場に持ち込む。
ところが、その農業イベントで実施された、トラクターが通る道にカカシを置き、人間との衝突事故防止できるかどうかチェックする実験では、停止することなくカカシを踏みつけ、最後は脱輪し、用水路に落ちてしまうという大失態になる。
ドラマでは大企業のおごりと上には逆らえない企業体質が描かれていた。テレビドラマだからと笑ってはすまされないだろう。スズキの不正検査は、帝国重工のような失態が現実の大企業でも簡単に起こり得ることを示している。