通商上の紛争は、各国の世論に影響される
2018年4月、韓国は判定を不服とし、上訴した。これを受けて上級委員会は審議を行い、韓国の規制が恣意的かつ差別的であること、過度に貿易制限的であるというパネル報告を棄却した。わが国の主張は受け入れられなかった。
わが国では「WTOの判断はおかしい」という見方が多い。ただ、冷静に理解しなければならないことが一つある。通商上の紛争は、各国の世論(感情)に影響されるということだ。
わが国にとって、水産物の禁輸措置が続けられることは大きな痛手だ。特定の国の禁輸措置が他国の不安をあおり、想定外の風評被害をもたらす恐れもある。そうした展開は避けなければならない。国内世論としても、水産物の禁輸措置が続くことへの批判は根強い。政府がWTOパネルに紛争解決を求めたのは当然だ。
韓国にとっても世論の不安は放置できない。特に、食品への不安は国民生活に無視できない影響を与える。韓国が自国の事情に基づき、第一審の判定に不服を唱えることも、国内の不安や不満を解消するために必要だった。
国際社会での“戦い方”への理解が足りなかった
このように、国際社会における紛争(利害の対立)の解消には、客観性のあるデータなどに加え、各国の社会心理、感情が強く影響する。
議論を有利に進めるためには、正論(科学的根拠に基づいた論理的主張)だけを準備すればよいわけではない。科学的に正しい主張を行うだけでなく、相手の出方を見極めつつ、関係国(者)の十分な納得を得ることが必要だ。それが国際社会での戦い方である。
極論すれば、議論を有利に進めるためには、より多くの“同情”を得なければならない。そのための準備が勝負を分ける。国際政治の専門家は今回の結果に関して「わが国は国際社会でのけんかの仕方を理解していなかった」との印象を口にしていた。
国際社会の意思決定は、多数決の法則に従う。わが国が紛争を解決し、自国に有利な条件を手に入れるためには、味方を増やさなければいけない。そのためには自国の主張が正当であることを示すと同時に、他国の恣意的な対応による悪影響を伝えることも欠かせない。データなどの面で不足感があったとしても、「助けてあげたい」「状況は深刻だ」といった共感を得ることができれば、状況は有利になりやすい。