レモネードの原則:利益を上げることより夢を語る
吉田氏は、クラウドワークスの創業にあたって、経験から得ていた手持ちの知識やネットワークを次々に活用していったわけだが、さらに自身の失敗の経験もうまく転用している。
一度目の起業の失敗から、吉田氏はいくつかの反省を行っていたが、そのひとつに「会社には夢が必要だ」というものがある。一度目の起業では吉田氏は、利益を上げることを重視し、コンサルティングでも、小売りサービスでも、何でも収益性があれば手がけていた。しかしこのアプローチでは、企業が成長すればするほど、組織としての求心力が失われていく。
このような反省のなかで吉田氏が、クラウドワークスの創業に踏み切ったのは、そこに「働き方の新しい未来をつくる」という夢が見いだせたからだ。そしてこのことが、先に述べた開業時の有名エンジニアの写真提供につがる。語るべき夢がなければ、エンジニアの共感は集めにくかったはずである。
飛行中のパイロットの原則:変化に反応し新たな打ち手を繰り出す
以上のような取り組みを経て、クラウドワークスのプラットフォームはオープンへと向かう。まずは個人エンジニアなどの事前登録を募り、1カ月ほどで1300人の登録を得た。ここから企業まわりをはじめ、「1300人のエンジニアなどの登録があり、閲覧するだけなら無料」と説いて回った。
このように吉田氏は、プロセスのなかでの局面の変化をとらえて次々に打ち手を切り替えている。プラットフォームを構築したらすぐに行動を開始し、エンジニアに対して「働き方の新しい未来」を説いて登録をうながす。そして登録者が集まると、発注側の企業へもアプローチする。そこでは「外注を早く、低コストで実現できる」とうたい、クラウドソーシングが世の中を変えるとの理念は表に出さない。大局的な見通しも大切だが、局面の変化へも迅速に反応して行動を切り替えることでプロセスの進行の加速している。
新たな市場創造に挑む起業家にとっての合理性
バージニア大学教授のS.サラスバシ氏は、熟達した起業家に特徴的な行動を図表1のようにまとめ、その原理を「エフェクチュエーション(実効の理論)」と名付けている。
そこに示されるのは、無理のない範囲で実験的な行動を繰り返すなかで事業を拡大していくアプローチである。このアプローチが有効なのはクラウドワークスにかぎらない、新規性の高い市場に挑む起業である。存在していない市場のデータは、当然存在しない。そこでの予測の的中度は低くなる。
予測が当てにならないわけだから、合理的な起業家は手持ちのリソースを生かすことに徹し、退路を残しつつ、方針を柔軟に見直し、失敗からも効用を引き出しながら、まずはやってみる。そして、時々の状況の把握と振り返りを怠らず、次々に手を打つ。