共に渋谷に本拠を置く國學院大學の赤井益久学長とクラウドワークスの吉田浩一郎社長。教育、ビジネス、それぞれの現場でリーダを務める2人が、“個性”の育て方などを語り合った。

自分の強みに気付かない人も

大学が担う人材育成も就業構造の変化への対応が課題です

赤井益久(あかい・ますひさ)
國學院大學 学長

【赤井】渋谷はいろいろな顔を持つ街。住む、楽しむ、働く、それぞれにおいて魅力的な場所があり、常に変化しています。

【吉田】職住近接にこだわる人が多いのは特徴の一つだと思いますが、確かにエリアの個性はそれぞれ違いますね。

【赤井】個性といえば、今は「人」にもますますそれが求められる時代。國學院大學は使命の一つに「個性と共生の調和」を掲げています。ただ最近は、自分の個性に気付いている若者は少ないですね。

【吉田】ビジネスの場でも、自分の強みに気付かない人が多いと思います。当社の事業は、仕事をアウトソーシングしたい企業と仕事をしたい個人のワーカーとをネット上でマッチングするサービス提供ですが、ワーカーの方は「この程度のスキルなら他の人も……」と消極的になる。みんな一緒に大学新卒として一括採用され終身雇用へ、という20世紀型の枠組みに守られる時代が長かったからかもしれません。

【赤井】まさに大学はこれまで多くのホワイトカラーを輩出してきましたが、それだけで通用する社会ではなくなりました。だから國學院大學では、独自の体験型授業「國學院科目」や課題解決型授業を導入し、社会や働き方の変化に対応しています。十人十色の個性をどう発揮させ就業力につなげるか。そこを大学は問われているわけです。一方で、学生たちには関心を持ったことや1日の行動を日記風に記録するウェブソフトを提供したり、キャリアサポートとして自身のこれまでの振り返りを徹底するよう指導して、自身の個性の気付きにつなげてもらっています。

未来の価値が変わった
大切なのは「今」

サーバント・リーダーとして一人一人の社員に一流の仕事を期待します

吉田浩一郎(よしだ・こういちろう)
株式会社クラウドワークス
代表取締役社長 CEO

【吉田】確かに現在、働き方はずいぶん多様化していますね。この会社を立ち上げて、労働史の変遷なども学ぶようになりました。かつて貨幣が登場し、労働の対価が貨幣で支払われるようになると、貯蓄して未来に備えられるようにもなった。しかし今日、お金で未来が手に入る確実性は薄れています。むしろ「今、何をしたいか、しなければならないか」と、「今」にフォーカスする必要性を感じます。

【赤井】國學院大學の基本にある神道に「中今」という言葉があります。人は過去から未来へつながる「今」に生きている。「今」の自分は過去の延長であると同時に、未来の自分を生み出す。だから「今」を大切に生きるべきなのです。

【吉田】國學院大學の学生さんたちが日々の行動を振り返ることも、自分の「今」を再確認するのに役立つわけですね。

【赤井】おっしゃるとおりです。ただグローバル化が加速する中、私は時間軸の概念に加え、空間軸が大切だと考えています。日本や自分自身の立ち位置を空間的にも認識して物事を考え、納得して行動すべきでしょう。本学では、そうした視点を持たせ、社会構造の変化を自分事化できる人材を今後も輩出していきたいと考えています。

【吉田】今の時代、20世紀型の枠組みで人を導ける時代ではなくなりました。自身が納得して働く。そんな環境がますます求められていますね。

國學院大學では、過去の振り返りを促すことで、自身の強みを自覚するキャリア支援を徹底している。

任せることで自立心を引き出す

【吉田】私は、人材育成という面ではサーバント・リーダーに徹しています。社員一人一人が“当事者意識”を持って一流の仕事をしてくれるのが理想ですから、採用活動にもタッチしません。ウェブの時代になって、情報格差を利用した管理マネジメントは崩れました。そうした中では、やる気に徹底フォーカスしたリーダーが必要だと思っています。

【赤井】まさに個性を生かす経営ですね。任されれば、主体性や自立心が芽生えてくる。基本は、企業も大学も同じだと感じます。私は、学生に対してはサーバント・リーダーであるべきだと考えています。また、教職員にいかに当事者として達成感を感じさせるか。これも、常に考えています。

【吉田】口を出さず、任せるのも大変ですけどね。私は耐えられなくなると、同じビルのスポーツクラブへ行くようにしています(笑)。

【赤井】なるほど(笑)。終身雇用や正規雇用が当然の就業構造が日本社会に戻ることはないでしょう。学生たちには、この社会を生き抜く力を身に付けてもらわなければならない。主体性を持ち、日本人としての自覚を備えた人材を育成することは、私たちの使命。リーダーとして、積極的に改革策を推進していきたいと思います。

【吉田】当社に登録し、日本語を使って働く方々は、世界100カ国余りに80万人を数えます。当社の責任がより重くなっていく分、やりがいも大きくなっています。「今」を見つめ、大事にすることは、企業の成長にも欠かせません。朝令暮改も恐れず最善を尽くしたいと考えています。

【赤井】共に個性が輝く社会へ貢献していきましょう。