なぜ私は稲盛和夫、ゴールドマン・サックスを口説けたか●千本倖生
「電電公社(現・NTT)のライバルが必要です。日本で2つ目の通信事業会社をつくりましょう」
こんな言葉を稲盛和夫氏にぶつけたのは、稲盛氏が京セラの経営者として注目を浴び始めた80年代半ばのこと。当時電電公社の社員だった私は、公社の民営化にあたり、「日本の通信業界は電電公社の1社が独占してしまう」と危惧していました。
「通信業界の発展のため、電電公社の独占状態を崩しましょう。私は一介の技術屋ですが、稲盛さんの経営手腕は不可能を可能にするに違いありません」
このように熱く語った結果、稲盛氏の承諾を得て、第二電電(現・KDDI)が誕生します。そして私は電電公社を退社すると決意する前に、直接会って話をしたい人がいました。それは当時の電電公社の真藤恒総裁です。しかし一部長の私が会える人ではない。そこで秘書に総裁の出張予定を聞き、自分も同じ便に乗り込んで、総裁の隣の席に座りました。総裁は驚いていましたが、誠意を尽くして説明したところ、「黙認する」と言っていただけました。
イー・アクセス(のちのワイモバイル)の立ち上げにあたっては、ゴールドマン・サックスに出資をお願いするため、ニューヨーク本社で朝から晩まで膝詰めで談判したこともあります。その結果、20億円の出資を受けることができました。
いずれのケースも、「日本を変えたい」というビジョンがあり、それを実現するために、人の3倍、準備をしたからです。私心のない目的とその達成のための情熱に比べれば、話し方のテクニックなど、表面的なものにすぎません。
レノバ会長
1966年京都大学卒業。84年第二電電(現KDDI)を共同創業。99年イー・アクセスを創業。2005年イー・モバイルを創業。15年から現職。
石田章洋
放送作家
「世界ふしぎ発見!」(TBS)、「TVチャンピオン」(テレビ東京)などのテレビ番組の企画・構成を担当。著書に『ひと言で伝えろ』など多数。
樺沢紫苑
精神科医
札幌医科大学卒。米・イリノイ大学への留学を経て樺沢心理学研究所を設立。著書に『学びを結果に変えるアウトプット大全』など多数。