政権の批判者には庶民のための経済政策がない
ここまで説明したような反緊縮的な政策は諸外国でも、財務省や中央銀行の保守的なエリートたちによって拒否されるのが普通です。しかし、緊縮的な新自由主義に対抗する欧米の左派・リベラルの政治家や経済学者は、反緊縮的な政策を掲げて対抗しています。
私にとって不思議なのは、日本では戦争や原発事故で脅かされる命に誰よりも敏感で、政府の世論誘導に欺かれなかったリベラルな市民や政治家たち、そしてこうした人々の知識の源になっている新聞記者たちが、デフレ不況によって失われた数万の命や、人生を狂わされた数百万の人々に対してとても冷淡に見えることです。
安倍政権を批判する政治家やジャーナリストたちも、自己満足のような「アベノミクス批判」に終始し、底辺の人々の暮らしを向上させるような経済政策を打ち出せていません。
このような状況は危険です。このままでは原発をなくすことも、平和憲法を守ることも難しいでしょう。ひとりでも緊縮神話に疑問を持つ人が増えるように、筆者は「薔薇マークキャンペーン」に協力しています。緊縮財政を続けることで、利益を得るのは金融界やエスタブリッシュメント(エリート支配層)で、被害を受けるのは庶民です。ぜひその事実を知っていただきたいと思います。
関西学院大学 総合政策学部 教授
1974年大阪生まれ。専門は環境経済学、環境政策。神戸大学大学院経済学研究科で博士(経済学)を取得。京都産業大学経済学部准教授を経て現職。著書に『脱原発で地元経済は破綻しない』(高文研)、『環境税制改革の「二重の配当」』(晃洋書房)、訳書に『黒い匣:密室の権力者たちが狂わせる世界の運命 元財相ヴァルファキスが語る「ギリシャの春」鎮圧の深層』(ヤニス・ヴァルファキス著、明石書店、近刊、共訳)などがある。