日本語には心情を表すことばが多いワケ
言語学者の金田一春彦は著書『日本語[新版]』(岩波新書)の中でこう言及している。
〈日本語では、心理内容を表す感情関係の語彙は実に豊富である。(中略)微妙な心理の動きを表す語彙は日本語にいくらでもあり、これはフランス語やスペイン語に訳し分けられないと言われても、そうだろうと思う〉
また、同氏は著書の中で日本語の「気」を用いたさまざまな慣用表現(たとえば、「気が滅入る」「気をもたせる」など)は外国人から理解されにくいこと、加えて日本独自の感情を示す語彙が豊富であることを紹介している。
なぜ日本には多くの心情表現が存在するのだろうか。
これは私見ではあるが、一つは日本が四季の変化に富んだ風光明媚な自然を有している点が挙げられるだろう。美しい自然や、ときには人々を畏怖させる自然に対し、それらに抱いた思いをさまざまなことばで表現しようとしたのではないだろうか。
もう一つには、狭い国土の七割以上を山岳地帯が占めることに起因していると考える。つまり、古来より人々は限られた範囲(平野や台地)に集まって生活せざるを得なく、そのため隣人と接する機会が多くなる。よって互いの意思疎通を図るための心情表現が数多く生まれたのではないか。
国語の記述問題で「キモい」という表現を使ったら減点
翻って、みなさんがわが子を観察するとどういう感想を抱くだろう。
口を衝いて出てくる心情表現は、「キモい」「ヤバい」「ウザい」「むかつく」……そんな「決まり文句」ばかり発していないだろうか。
辞書に登録されている表現もこの中にあるとはいえ、主として口語で用いられるこのような表現に対し、入試問題の答案を採点する国語科教諭は眉をひそめる場合が多い。よって記述作成の際には使わない方が無難であろう。以前、「キモい」の使用について何人かの私立中学・高校の国語科教諭と議論したことがある。減点対象にするという声が多かったことを付記しておきたい。仮に「キモい」という気持ちを表現したいなら、例えば「不快」「不気味」「不愉快」「鳥肌が立つ」といった標準的な言葉に“変換”する必要がある。