「心情語」をどれだけ知っているかで得点に差がつく
それでは、子どもたちがこういう心情記述問題を得点源にするにはどういう学習をすればよいのだろうか。文章中から設問に対する根拠を丁寧に見つけ出す作業、登場人物に起きた出来事と心持ちの変化をしっかりと読み取る作業……。もちろん、これらの鍛錬を積むのは大切なことだ。
しかし、わたしが今回問いたいのは、子どもたち各人が有する「心情語」の多寡である。言い換えれば、その子がどれくらい人の気持ちを表す「心情語」を知っているかどうか。その数が多ければ多いほど、バリエーションに富んだ記述が作成できると考えている。
次の文章と問題を見てみよう。
【文章】筆者作成オリジナル問題文
「なんで飛べないんだろう」
ハトを観察していると、何かがハトの足にからみついているのが見てとれた。
「あっ!」
それはどうも釣り糸らしかった。
「ひどいなあ……かわいそうに……」
太郎くんはモヤモヤとした気分になった。だって、人間が勝手に捨てたであろう釣り糸のせいで、何の罪もないハトが傷ついてしまっているのだ。
「よし、助けてあげなきゃ」
太郎くんはハトにそっと触れた。ハトはまたバタバタと羽を動かした。グレー色の羽が幾枚か地面に散った。
【問題】(文中の最後に)「太郎くんはハトにそっと触れた」とありますが、それはなぜですか。説明しなさい。
解答例をこのような表現だろう。
【解答例】釣り糸がからまり傷ついてしまっているハトを自らの手で助けようと決意する気持ちから。
「決意する」がこの記述内で「心情語」に当たる表現である。それ以外にも、別の心情語をここで適用することができないだろうか。それらをたくさん思い浮かべられる子どもたちは、すらすらとこの手の問題を処理することができる。
たとえば、「決心する」「決断する」……。あるいは、「使命感」でもよいだろう。ここで「使命感」(=自分に課せられた任務を果たそうとする気概のこと)という表現を選択した場合、その意味から、「人間が身勝手に捨てたであろう釣り糸のせいで~」という箇所に目が留まるはずだ。すると、こんな別解を完成させることができる。
【解答例】人間が勝手に捨てたであろう釣り糸にからまり傷ついてしまったハトを救うことは、一人の人間としてやらねばならないことだという使命感を抱いたから。
ここでわたしが言わんとしているのは、手持ちの「心情語」の数が多ければ多いほど、それだけ、主人公の気持ちに寄り添ったバリエーション豊かな「記述解答」を作成できるという点だ。反対に、手持ちの「心情語」の数が限られているのであれば、記述解答がそれだけしぼられてしまう。それを即座に思いつけないと、制限時間内にこの手の問題を処理することは難しい。