サントリー、キリンの技術者も認めたビールづくり

日本市場攻略のキーとなるバドワイザーは、「キング・オブ・ビアーズ」と呼ばれ、ハイネケンやカールスバーグと並ぶ世界のプレミアムブランドのひとつだ。サッカーW杯のオフィシャルビールであり、「フォレストガンプ」などハリウッド映画にも数多く登場する。日本では85年からサントリーが、93年からはキリンがライセンス生産・販売をしてきた。「指導は厳しかったが、旧アンハイザー・ブッシュからビールづくりの多くを学んだ」とサントリーとキリンの技術者たちは口をそろえる。

サントリーが生産・販売していた1990年前後には年500万箱~600万箱(1箱は大瓶20本=12.66リットル)と市場シェアの1%程度を占めていた。しかし、この10年ほどは100万箱を下回っている。

キリンに対し、ライセンス契約の解除がABIから伝えられたのは昨年夏頃。一方、ビール類の酒税改定が明らかになったのは、2016年の年末だった。2020年10月から2026年10月にかけてビール、発泡酒、第3のビールと3層ある税額が、段階的に統一されていくことが決まっている(ビールが下がり、第3のビールが上がる)。

ビール大手4社を揺さぶる“元寇”となるか

あわせて18年4月からはビールの定義変更も発表された。ビールとは原材料に占める麦芽構成比が「67%以上」(残りは米やコーンなどの副原料)と定義されていたのを、「50%以上」に緩和され、副原料として果実やハーブの使用も認めるという内容だ。

実は、アメリカで生産されるバドワイザーの麦芽構成比は、“50%台”とされている。しかし、日本では酒税法から、「67%以上」という日本仕様で、30年以上も生産されてきたのだ。麦芽構成比が異なるのに、本家と同じ味わいとなるようサントリーもキリンも、技術力で対応してきた。味わいだけではなく、濾過工程に白樺のチップを使うなど、独自の工夫も重ねていたのである。

しかし、昨年の定義変更により、50%台の仕様であっても、堂々と「ビール」と名乗れるようになったのだ。この影響もあり、ABIはバドワイザーの自社生産に切り替え、バドワイザー本来のレシピでの展開に踏み切った、といえよう。

コリアンダーシードやオレンジピールを副原料に使うヒューガルデンも同じく「ビール」と名乗れるようになったのも、プレミアム戦略にとっては大きい。もちろん、ビールの酒税が段階的に下がっていくことも、バドワイザーをはじめビールには優位になっていく。

ABIJは20代の若者を巻き込み、バドワイザーを展開していく方針だ。

94年に205万人だった20歳人口は、現在120万人前後となり、23年には114万人に減り、34年には100万人を切っていく。若者のビール離れ以前に、若者の人数が減っていくのだ。

それだけに、世界最大手による新しい提案力は求められるし、組織された混成部隊の営業力も試される。ABIによる自前主義の日本攻略作戦は、これまでビール4社による国内戦に明け暮れてきた日本のビール産業にとって、“元寇”あるいは“黒船到来”となるのか。

(写真=iStock.com)
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