世界有数の販売量を誇るビール「バドワイザー」が、今年1月、キリンへの生産委託をやめ、日本向けを米国・韓国産に切り替えた。同ブランドを展開するのは世界シェア3割の最大手アンハイザー・ブッシュ・インベブ(ABI)。日本のビールは対抗できるのか――。

米No.1シェアのバドワイザー「日本でも本格展開していく」

※写真はイメージです(写真=iStock.com/pjohnson1)

「バドワイザー」や「コロナ」などのブランドをもち、約3割の世界シェアを握るビール最大手、アンハイザー・ブッシュ・インベブ(ABI・本社ブリュッセル)が、日本市場に本格的な攻勢をかけてきた。主力の「バドワイザー」はこれまでキリンビールに生産と販売を委託してきたが、今年1月から自社による生産・販売体制に切り替えたのだ。バドワイザーの缶とワンウエイ瓶は米工場が、業務用の樽は傘下にある韓国オリエンタルブリュワリービール(OBビール・本社ソウル)が、それぞれ生産を担い日本への輸出を始めている。

ABIは2015年5月、日本法人のABIジャパン(ABIJ・本社東京都渋谷区)を設立。保有ブランドのマーケティング支援と、飲食店向けの業務用ビールを担当する営業を行ってきた。

18年1月からはアサヒビールが扱っていたベルギービール「ヒューガルデン」の販売を自社に切り替えるなど、日本での事業拡大を進めてきた。コロナ、ヒューガルデン、米シカゴのクラフトビールであるグーズアイランドに続き、最大ブランドであるバドワイザーが今年から加わり、「ABIの商品ポートフォリオはすべて揃った。みな、プレミアムビールであり、今年から日本で本格展開していく」(榎本岳也ABIJコマーシャルディレクター)方針を明かしている。

まだまだ拡大する日本のプレミアムビール市場

ABIで日本・香港・マカオの統括責任者を務めるゼネラルマネージャーのロドリゴ・モンテイロ氏は、「(高級ビールをより普及させる)プレミアムゼーションを日本市場で進めることが、ABIの最大ミッション」と語る。

また、東アジア統括プレジデントであるブルーノ・コンセンティーノ氏は「韓国、日本、香港、マカオからなる東アジアというビジネスユニットは、昨年新設したばかり。グローバルの中でも最も重要な位置づけだ。その理由はプレミアムビールの成長余地が大きい日本が含まれているからだ」と話す。

ABIJは、アサヒやキリンなどから、営業マンをスカウトして集めている点が特徴だ。とりわけ、営業力が求められる飲食店向けの営業マンが多いと見られる。

実は日本のビール業界には、企業間競争の激しさから大手4社の間での転職実績がほとんどない。たとえば、自動車業界では開発やデザイナーをはじめ人材の流出入は多い。また、百貨店業界では、売り場のユニットごとメンバーが移ってしまうケースなどは昔から存在した。これらに対しビール業界は他業界からマーケティングの責任者がスカウト人事でやってくることはあってもごく稀なケースとして捉えられてきた。