市場の陣取り合戦が熾烈化している

足許、わが国のビール業界で缶ビールの値下げ発表が相次いでいる。値下げは10月からだが、食品、日用品、飲食などの分野では人件費の上昇などに対応するために値上げラッシュが鮮明なのと対照的だ。ただ、業務用のビンや、タルに入ったビールは値上げされている。

缶ビール値下げの背景には、ビールにかかる税金(酒税)の引き下げがある。今年10月に酒税は引き下げられる。今後、ビール系飲料の酒税が一本化される。それに合わせて、税金の負担が低くなる分を消費者に還元し、より多くのシェアを獲得しようと、各社が値下げに踏み切った。値下げ発表に合わせて高価格帯の新しい商品を投入する企業もある。

それに伴って、わが国の缶ビール市場における陣取り合戦は熾烈しれつ化している。値下げに対応しつつ、どのような新商品を投入するか、その際のマーケティング戦略はどうするかなど、対応次第で各社のシェアが変化する可能性も高い。

それは、多くの消費者により良い満足感をもたらすことになりそうだ。私たちの身の回りのモノやサービスの価格はまだ上昇しそうだ。それに対して、缶ビールはより手頃な値段で、より多くの選択肢が提供されはじめた。ビール愛好家にとって、近年稀に見る充実した夏になりそうだ。

缶ビール
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ビールの税率は引き下げ、第3のビールは引き上げへ

国内のビール大手メーカーが缶ビールの値下げを実施している要因として、“酒税改正(平成29年度改正)”は大きい。財務省の資料によると、2023年10月、ビールの税率は70円から63.35円へ引き下げられる。その後、2026年10月に再度税率は引き下げられ54.25円になる予定だ(350mlあたり)。

一方、発泡酒(麦芽の比率が25%未満の場合)に関して、2026年10月に46.99円から54.25円に税金が引き上げられる。第3のビールと呼ばれる新ジャンルのビール系飲料に関しても税率は段階的に引き上げられ、2026年10月にビール系3酒類(ビール、発泡酒、第3のビール)の税率は一本化される。

ビール系飲料の酒税が統一される要因は、よく似た飲料であるにもかかわらず、税率の違いが販売数量に影響を与えているからだ。税率が低い分、第3のビールなどの価格は低く設定される。そうした商品を迅速に開発する体力のある企業は、ビール系飲料市場においてより多くのシェアを手に入れる可能性が高まる。