「それは、デジタル化への試みをやめるのではなく、『カスタマージャーニー』(顧客が製品購入に至る道筋)を正しく把握するための試みを常に続けていくことの大切さを意味しています。顧客は画一的ではありません。蓄積したパターンから仮設を立て、よりパーソナライズされたマーケティングをするために、必要なデジタルの役割がある。これらの学習はまだ十分に定量化されてはおらず、より一層の科学的な調査と検証を必要としています」
そしてその分野においてこそ、AIの発展が寄与するのだとコトラー氏は指摘する。
「誰にでも同じようなメッセージを送るのではなく、必要な人に必要なものを、文節単位でパーソナライズされた正しいメッセージを、適切なタイミングで送信できるようになるということです。具体的には、Xという個人の特性を把握したAIが、蓄積されたデータの中から、Xに最適なメッセージをピックアップして、特定のメディアを通して午後2時に送信する、といった具合です」
ひと昔前なら夢物語だったこのような指摘も、もはや現実的なものになっている。GAFA、つまりグーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンといった巨大IT企業は今後もデータを蓄積し、ますます巨大化していくだろう。そしてGAFAが紐付けられたSNSそのものもユーザーのデータを蓄積し、それぞれに適したパーソナルなメッセージを発信することが可能な時代なのだ。IoT(Internet of Things)によってモノがインターネットに接続されれば、さらに深く顧客の行動を理解でき、より適切なメッセージを送れるようになるだろう。
ブランド名よりも、商品名で検索される
高岡氏はそれこそが「新しい現実」だと語る。そして、「20世紀型の伝統的なマーケティングはもはや通用しない。今世紀に適応した新しい現実的なマーケティングを考えなければならないのです」と、力を込めた。
「今インターネットやeコマースでわれわれが商品やサービスを検索するとき、ブランドで検索するのではなく、あくまでも自分が必要とする情報をテキストとして入力して、検索しています。つまり、顧客にとっては求めるものに応えてくれるなら、ブランドはどうでもいいわけです。その状況で、ブランドそのもの、ブランド認知がどれほど重要な意味をもつのか、マーケターは改めて考え直す必要があるでしょう」