芸能人の働き方とは相性が良くない

そう考えると、生活が不規則で、移動も多い自由業である芸能人の働き方とは相性が良くないといえる。

「芸能人は、緊張を強いられる場面や日々のプレッシャーも多いでしょう。ロケバスなどの狭い環境で拘束される時間も長い。ジャニーズの2人も、活動を休止するぐらいなので、おそらくは頻繁に発作が起きているのでしょう。薬は効果がある一方、反応が鈍くなってしまう。タレントの仕事は瞬時の判断を求められるし、ダンスなどの動きも激しい。一回ゆっくり休んで、少しずつできる分野だけ復帰するのが、最終的にはいい結果に結びつくのではないでしょうか」

谷崎潤一郎もパニック障害だった

日本で「パニック障害」という症状が知られるようになったのは、90年代以降だという。

「フロイトの時代から症状の記述が残っている病気で、1980年代までは不安神経症と呼ばれていました。80年代にアメリカ精神医学会による、患者の精神状態に関する診断基準(DSM)で『パニック障害』という名前が付いた。日本でも90年代には社会的に浸透していました」

作家の谷崎潤一郎も若いころは、パニック障害だったと見られている。

「本人は『鉄道病』と書いてましたがね。小説『悪魔』の中で実体験をもとに、名古屋から東京の道中で発作が起き、何度も下車しながらようやく帰路に就いたという記述もあります」

古い歴史を持つ病だが、その受け止められ方は社会状況によって変わってきたという。

「例えば谷崎の時代は、社会がいまよりずっと寛容だったため、パニック障害で苦しんでいる人は繊細な人だとか、個性だと思われていたようです。電車が苦手で多少出社時間が遅れようが、それほどとがめられず、その分夜働けばいいという雰囲気だったのでしょう。でもいまは一分一秒、出退勤が管理される。『今日は体調が悪いから、のんびり仕事をしよう』ということができなくなっている。そういった社会の余裕のなさが、パニック発作の遠因になっているのかもしれません」