尾畠さんが一番怖いもの
尾畠さんのヘルメットには大きく「絆」という漢字が記されている。
「私はボランティア仲間や被災した人たちとのつながりを大事にしている。出会って最初のうちは向こうは警戒しているし、こっちも緊張している。でも敬語を使わずに、目を見てお互いモノを言えるようになるまで一日一日を大切にしていく。(ボランティアした)結果をみて、(ボランティアを)させてもらったところのオヤッサンやネエサンが、こんなことまでしてくれたのかと喜んでくれるのが最高の瞬間だ」
尾畠さんが寝泊まりする軽自動車には、近隣住民とボランティア仲間が絶え間なく訪れ、冗談を言い合ったり、尾畠さんに相談ごとをしたりしては帰っていく。その中には、小学校1年生の女の子・ゆうなちゃんが、母親と毎日訪れていたという。
おばたさん さっきはあめとじゅうすとたくさん ありがとうございます うれしすぎてたべるのがもったいないです☆ おばたさんだいすき ゆうなより
という尾畠さんの似顔絵入りの手紙が軽自動車に貼ってある。別の女の子が「尾畠さーん」と声をかけると「わあ、お人形さんみたいに可愛い子だね」と大袈裟に接してみせる尾畠さん。子どもに囲まれる尾畠さんをみたボランティアが「モテますね(笑)」と声をかけると、
「私のところなんか来なくていいのに。こんな私みたいなバカなおっさん……」と顔をクシャクシャにして照れる。取材班が、
「報道で尾畠さんを知って、尾畠さんのライフスタイルにあこがれを持つ人が出てきていますね」と言うと、
「テレビもラジオもみないし、聞かないから何が何だかまったくわからない。ただ毎日ボランティアをさせてもらっているだけ。そうしたら、町内の人やら報道関係の人が、みなさん訪ねてきてくれるので、ここに座って話しています。来る人拒まず、去る人追わず。声をかけられたら『ありがとう』だし、仕事が終わったら『お疲れ様』です。当たり前でしょ。テレビの人だってみんな相手にしなくていいと言うけど、重いカメラを背負って頑張っているんです」と尾畠さん。
一日の疲れがピークに達したであろうときにですら、どんな相手に対しても分け隔てなく、時には「オヤジギャグ」を交えながらハキハキと言葉を交わす姿に「そこまでしなくても……」と問いかけると、
「正直言えば、私は私が怖いんです。放っておくと悪いことをするのではないかという恐怖です。毎日自分を振り返っては、自分自身が悪いことをしたととにかく叱りつけている。これからも私は常にボランティアをして、感謝を続けるしかないんです」