生身の人間が相手だと「脳が本気になる」

三宅「日本人は英語を“教科”として見すぎです」

【茂木】三宅社長はご存知でしょうけど、幼少期の言語習得や脳の発達の研究をされているパトリシア・クールさんが行った興味深い調査があります。アメリカ人の子どもに、習得が難しいことで有名な中国語の母音を教えるものです。調査ではビデオを見せるケースと、オンライン中継で教えるケースと、生身のインストラクターが対面で教えるケースで習熟度を比較しました。

結果、子どもが中国語の母音を覚えたのは、生身の人間から教わったケースだけだったそうです。

その理由はおそらく生身のインストラクターが目の前にいると「脳が本気になる」からだと思います。脳には、相手の行動を自分のなかで鏡のように映し出すミラーニューロンという神経細胞が前頭葉にあります。だから英語をしゃべる方が目の前にいるときだけそのミラーニューロンが働いて、脳が本気になって会話を習得しやすくなるということはあると思います。

【三宅】やはりネイティブの方と相対して実際に会話をすることが重要であるわけですね。

【茂木】はい。だから僕が同世代としゃべったのは日米学生会議ですけど、はじめて脳が本気になった経験をしたのは15歳のときのホームステイでしょうね。

英語の本質は文法や発音ではない

忘れもしませんけど、家に着いていきなりさせられたのが「人生ゲーム」。あのゲームは、大学に行ったとか、結婚したとか、そこそこ複雑なゲームじゃないですか。それを当時、小学校4年生と2年生だったトレバーとランディという兄弟と一緒にやることになった。しかも、向こうは年上のお兄さんが遊んでくれると思っているから僕も何か面白いことを言わないといけなくて……。あれは本当に苦しかった。

でも、トレバーもランディも僕の滅茶苦茶な英語については全然気にする様子ではなかったので、それは良かったですね。あの時、コミュニケーションとしての英語の本質は文法や発音ではないと気づいたのかもしれません。

【三宅】そういう経験は大事ですよね。日本人はどうしても英語を「教科」としてみてしまう傾向が強いと思います。その意味では今後、小学校の3年生から英語を「教科」ではなく「英語活動」という位置付けでスタートさせるのは良いことではないかと思っています。

【茂木】「教科として英語をやっているから」という社長のご指摘は、先ほどの完璧主義にもつながる話なので、たしかにそうかもしれないですね。町で外国人に話しかけられたら「抜き打ちテスト」を受けている感覚の人も多いでしょうから。