世界に出遅れた日本人

【三宅】ただ、小学校の英語導入に関してはすごく反対がありました。今でも反対される方がいらっしゃいます。

【茂木】反対している場合じゃないですよね。今、世の中ではグローバルということが言われていますけど、英語をしゃべれないのは日本だけですよ。シンガポールやフィリピンは当然ですけど、インド人も中国人もタイ人でもベトナム人も当たり前のように英語をしゃべります。

世界には数千の言語があるのでそれすべてを習得するのは無理です。だから、とにかくみんなが共通言語として英語をしゃべって、グローバルに交流する。そのなかに日本人も入りたいですよね。そしてそのためには、やはり英語をあたり前のものとしてアプローチできるようにならないとダメだなと思います。

【三宅】「英語をやると日本語ができなくなる」といった理論を聞いたこともあります。

【茂木】その心配はないでしょうね。世界を見渡してもバイリンガル環境で育つ子どもはごくごく普通にいるでしょう。ご両親の言葉が違う子どももいれば、数百の言語をもつインドのように、ひとつの地域で複数の言語が使われる環境で育つ子もいます。

複数言語を学ぶと認知症になりにくい

ちなみにそうした状況にいるバイリンガルの子は、前頭葉の文脈を認識する領域、例えば眼窩(がんか)前頭皮質あたりで必要な言語の文脈を認識して、尾状核(びじょうかく)というところで「スイッチ」を切り替えていることが知られています。

三宅 義和『対談(3)!英語は世界を広げる』(プレジデント社)

例えばアメリカに行くと右側通行なので最初は戸惑いますが、徐々に慣れますよね。そして日本に帰ってくると今度は左側だから「あれー」と言ってまた戸惑う。ところがそれを繰り返しているうちに、「アメリカに行ったら右。日本だったら左」と瞬時に切り替えられるようになるじゃないですか。それができるのも脳内にスイッチング回路があるからです。

バイリンガルの子も「日本語は日本語」「英語は英語」と文脈で判断して瞬時に切り替えられるので最終的には混ざりません。だから「子どもをバイリンガルにしても何の問題もない」というのが脳科学的な見解ですね。

【三宅】そのお話を聞いて安心した子育て中の読者は少なくないでしょう。

【茂木】しかも、最近の研究だとバイリンガルの方のように脳を複数の言語で使っている方は認知症の発症が少し遅いというデータが出ています。バイリンガルまでいかなくても、やればやるほど効果がある。しかも、英語をはじめた年齢には関係なく、第二言語をどれぐらい習熟しているかで効果が出ると。

おそらく第二言語を扱うことで脳のシナプス結合の繋ぎ方が密になるため、加齢に伴い回路が少々やられても認知症になりにくいようなのです。そのエビデンスもちゃんとあります。

【三宅】それは素晴らしいニュースですね!

茂木健一郎(もぎ・けんいちろう)
脳科学者
1962年、東京都生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、同大学院理学系研究科修了。『脳と仮想』(新潮社)で第4回小林秀雄賞受賞。『結果を出せる人の脳の習慣』(廣済堂出版)など著書多数。
三宅 義和(みやけ・よしかず)
イーオン代表取締役社長
1951年、岡山県生まれ。大阪大学法学部卒業。85年イーオン入社。人事、社員研修、企業研修などに携わる。その後、教育企画部長、総務部長、イーオン・イースト・ジャパン社長を経て、2014年イーオン社長就任。一般社団法人全国外国語教育振興協会元理事、NPO法人小学校英語指導者認定協議会理事。趣味は、読書、英語音読、ピアノ、合氣道。
(構成=郷 和貴 撮影=原 貴彦)
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