その際に注目すべきものとしてティースが挙げているのが「共特化の原理」です。単独では特殊で大した価値はなくても、相互に結合することによって大きな価値を生む資源の組み合わせがあり、その原理に従って再構成を考えるべきだとティースは言います。

しかも、共特化には企業内の結合だけでなく、企業間の結合も含まれます。生物は外部のものを利用して進化してきました。人間も、視力を補うために眼鏡を作ったり、速く移動するために自動車を造るなど、外部のものを活用して進化してきました。企業も同様に、内部だけでなく外部にも目を向けて、ビジネス・エコシステムを形成することが重要だと指摘しています。

共特化の例として、OSとアプリケーション、自動車とガソリンスタンドなどの関係が挙げられます。

ビジネス・エコシステムの例では、ソニーがプレイステーションでゲーム業界に参入したときの戦略が挙げられます。ソフト開発企業や販売店と協力して、共にメリットが得られる関係を築くことで任天堂を破りました。

また、広島県の特産物である「広島レモン」のブランド戦略でも、ビジネス・エコシステムが形成されました。カゴメとの商品開発や、料理家や飲食店を巻き込んでのレシピ開発、航空会社やJRと連携しての商品販売などを展開し、成功しています。

ダイナミック・ケイパビリティは、日本企業に適した能力だと思います。なぜなら、日本企業は欧米企業と異なり、職務権限が曖昧で、職務転換が可能だからです。これは、変化に対応して人員を再配置・再構成しやすい性質を持っているということです。

しかも、日本企業は多くの知識資産を持っています。それらを柔軟に再配置・再構成・再利用できれば、変化の激しい環境でも乗り越えていくことができるはずです。そのためには、社内にどのような資源があるのか、再点検が必要です。富士フイルムは、資源の再点検を徹底的に行ったそうです。

日本企業には、自社の強みだけをとことん追求する傾向がありますが、それだけでは環境の変化に対応できません。一段高い視点に立ち、環境の変化を常に意識して資源の再構成を考えることが必要です。

菊澤研宗(きくざわ・けんしゅう)
慶應義塾大学商学部・大学院商学研究科教授
慶應義塾大学大学院商学研究科博士課程修了。専門は組織の経済学、ダイナミック・ケイパビリティ論、比較コーポレート・ガバナンス論。著書に『ダイナミック・ケイパビリティの戦略経営論』(編著)、『改革の不条理』『組織の不条理』など。
(構成=増田忠英 写真=時事通信フォト)
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