ゴーン氏の発言はパフォーマンスに過ぎない
ところで今回のような開示手続きで拘留が解かれるようなことはない。しかも拘留理由開示の手続きの実施は、全国の裁判所で出される拘留決定の0.5%以下と極めて少ない。
それなのになぜ、ゴーン氏は拘留理由の説明を裁判所に求めたのだろうか。
沙鴎一歩の見方はこうである。ゴーン氏が拘留理由の開示を求めたのは、パフォーマンスにすぎない。メディア、とくに特捜部の捜査に批判的なフランスなどの海外のメディアに、捜査の異常さを訴えて自らの主張を誇示し、早期の保釈に向けてアピールしておきたかったのだろう。
事実、傍聴券を求める長蛇の列には海外のメディアも多く見られ、「ゴーン氏、無実を訴える」との報道も大々的に行われた。かなりの宣伝効果があったと思う。
意見陳述では新しいことは一切、出なかった
法廷が開かれる直前、ゴーン氏の子息がフランスの新聞のインタビューに応え、「父の意見陳述を聞けば、だれもが驚くことになるだろう」と話し、さらに彼は「社会から隔絶された場所から出るのに自白しかないとすれば、悪夢を終わらせる方法を見つけたい」など長期拘留の人質司法に強い疑念も示していた。
だが、ゴーン氏の意見陳述では新しいことは一切、出なかった。すべて報道されていた内容だった。ゴーン氏側はメディアを通じて大衆の感情に直接、訴えたかったのだろう。
ここでこれまでのゴーン氏の容疑を整理してみよう。
ひとつは金融商品取引法違反に当たる有価証券報告書の虚偽(過少)記載容疑。8年間で計約91億円にのぼる。この容疑については、昨年12月10日と今年1月11日に起訴された。
もうひとつが会社法違反の特別背任容疑。ゴーン氏が私的な巨額の損失を日産に付け替えたなどとされるもので、東京地検特捜部は11日に起訴している。
拘留を延々と続ける捜査手法は曲がり角に
「ゴーン事件」の大きな特徴は、海外からの批判を受けていることだ。日本最高の捜査機関といわれる東京地検特捜部の捜査の在り方が問われている。
これまでの特捜事件は容疑を全面否認している限り、保釈は認められなかった。特捜部と裁判所は一体であるかのようにみえた。
だが、「ゴーン事件」では裁判所が、特捜部の拘留延長の求めに応じなかった。異例中の異例だった。「裁判所が海外からの批判に屈した」などと批判する検察幹部もいた。
検察は海外からの批判に正面から向き合っていく必要がある。公判が始まればなおさらである。保釈を認めず拘留を延々と続ける捜査手法は、曲がり角に来ている。
海外メディアは逮捕後の取り調べで、弁護士を同席させない捜査にも批判の矛先を向けている。