年間850人が学ぶ「ジャスコ大学」
さらに、合併を効果的に推進させたのが「ジャスコ大学」の存在だ。合併を成功させた要因の一つといってもいい。これは前身の岡田屋時代にあったOMC(オカダヤ・マネジメント・カレッジ:昭和39年に開校)を充実発展させたものだが、企業内専門職育成の機関としては小売業界初である。
専門職には各コースがあり、自己の選択によってコースを選択、受験し、合格者が一定の期間勉強するものである。例えば、店長育成コース・商品部員育成コースなどで、のちにコースは追加・分化して27コースに及んだ。ジャスコグループで年間850人が勉学にいそしんだ。
ジャスコ大学では出身会社・学歴・年齢・性別の区別なく、個人の自己申告によって一定の試験を合格したものが一同に会して勉強する。そのことに意義がある。
「集合教育に参加するということは、全国各地からお互いに顔も名前も知らない者が一堂に集まり、共通の情報を得ることになる。共通のコミュニケーションがはかれる」
そして、それにより「何かあったとき力となる情報や知識をもつ仲間の輪が広がる」と小嶋はいう。勉強を通じて視野が広がり、交友が広がり、若人が将来を語り合うなど、人心の「一致」からさらに人心の「融合」へと高めたのが、このジャスコ大学なのだ。
「同じ人間同士、胸襟を開けば通じる」
人心一致、人心融合した合併によって規模を拡大するため、小嶋は「社員のポストや給与待遇面において徹底した機会均等と公正の原則を貫くこと」、そのための仕組み・制度づくりに、人生の正念場ともいえるほどの心血を注いだ。その公正さは経営の側からだけの公正さではなく、社員の側から見ても公正であると納得され、すべての社員が納得する制度でなければならない。
さらには、「社員の給与、福利厚生などの待遇面の水準は、合併する会社の中で一番高いレベルの会社に合わせることが大原則である。平均的ということはあり得ない」と、すべて上位水準へと合わせていった。それによりジャスコの待遇面での水準は飛躍的に高められていった。
合併人事のプロセスは簡単ではなかった。一部社員の不平不満が起こった。それに対しても小嶋は「同じ人間同士、胸襟を開けば通じるものである」、「正しいものは正しい」というような石のような信念をもって、一切妥協することなく、話し合い・説得に当たった。
良識は常に勝つ。程なくして、一部社員の不平不満は解消し、また方向性を失っていた職人たちをジャスコにはなくてはならない専門職へと生まれ変わる道筋を示した。
そうして、今日の流通業界最大のイオングループへの礎を築いていったのである。
東和コンサルティング 代表
三重県生まれ。岡田屋(現イオン株式会社)にて人事教育を中心に総務・営業・店舗開発・新規事業・経営監査などを経て、創業者小嶋千鶴子氏の私設美術館の設立にかかわる。美術館の運営責任者として数々の企画展をプロデュース、後に公益財団法人岡田文化財団の事務局長を務める。その後独立して現在、株式会社東和コンサルティングの代表取締役、公益法人・一般企業のマネジメントと人と組織を中心にコンサル活動をしている。