並べられた商品群は、段ボールに入ったまま

コロナ禍の小売業界でスーパーの存在感が高まっている。

たとえば阪神阪急百貨店などを傘下に持つエイチ・ツー・オーリテイリング(H2O)は関西スーパーをめぐって、オーケーと争奪戦を繰り広げている。米国の議決権助言会社などはH2Oの買収提案に反対しており、旗色は悪いが、それだけスーパー事業には魅力があるともいえる。

小売業界でトップの座に君臨するイオングループも、スーパーの強化を進めている。

小田急線の高座渋谷駅(神奈川県大和市)から歩いて5分。県道沿いの見慣れない店舗に入ると、段ボールに入ったまま積まれた商品群が目に飛び込んでくる。店舗名は「パレッテ」。イオンが昨年12月から神奈川県内で3店舗、実験的に展開しているブランドだ。近くにはオーケーやロピアといったライバル店があり、そうした激しい競争環境で、消費者がどの店舗に流れるか、検証を重ねている。

パレッテ高座渋谷店(神奈川県大和市)。事情を知らなければ、イオン系列だとは気づかないだろう。
撮影=プレジデントオンライン編集部
パレッテ高座渋谷店(神奈川県大和市)。事情を知らなければ、イオン系列だとは気づかないだろう。

「パレッテ」は小売業界では「ディスカウントストア(DS)」という業態に分類されることが多い。スーパーとの違いは価格の安さ。DSは品数を絞ることで、大量仕入れで安く提供する。一方、スーパーは豊富な品ぞろえで便利な店づくりを重視している。

トップバリュとは違うメーカーに冷凍食品を発注

パレッテが展開するのは、精肉や野菜などの生鮮品や酒類・調味料、冷凍食品、マスクや洗剤などの日用品のほか、調理済みの総菜など。大型カートを用意し、大量買いをする消費者をターゲットにしている。

そのかわり、スーパーの顔ともいわれる「鮮魚コーナー」はない。魚は、冷凍食品や干物など、長持ちする商品しか置いていない。オーケーなどに比べると、ほかの商品群もかなり絞り込まれている。一商品あたりの販売量を増やすことで、メーカーから安く調達する戦略だ。

店内の人員は少ない。菓子や加工食品は、簡単な開封作業でそのまま売場に並べられるシェルフ・レディ・パッケージを取り入れている。スマホ決済システム「スキャン&ゴー」を導入することで、レジに配置する人員も極力絞り込んでいる。徹底したローコスト運営を追求しているのだ。

そしてイオングループの店舗であるにもかかわらず、PBの「トップバリュ」は扱わない。イオン系列の店舗だと気づかない消費者も多いだろう。トップバリュの代わりに並んでいるのは、パレッテの独自PBだ。「ポテトチップス」「冷凍パスタ」など、従来とは違ったメーカーとの共同開発となっている。

イオンとこれまで取引をしていた冷食メーカーは「トップバリュをあえておかず、新たな取引先を開拓していることは大きな脅威になる。価格も今後かなり下げてくる可能性がある」と警戒する。