誤解【2】
「支持者は白人低所得層」

トランプ支持者というと、低所得・低学歴の白人男性で、自由貿易の犠牲者であり、現状に不満を抱える「嘆かわしい人々」というイメージがすっかり浸透している。リベラルな米国の大学・メディア関係の知識人層がトランプ支持者に前述のようなレッテルを貼った結果、日本でも多くの人々がトランプ支持者像を誤解してしまっている。

時事通信フォト=写真

しかし、このイメージはトランプ支持者像とデータの上では必ずしも合致するものではない。本物のトランプ支持者像を知るには、16年に共和党の大統領候補者を決めるために共和党内で行われていた大統領選挙の予備選挙に注目することが必要である。16年の予備選挙では候補者が乱立したことで、各候補者の支持層が明確に分かれ、トランプ支持者とはどんな人なのか、世論調査にもはっきりと表れていたからだ。

結論から言うと、「トランプ支持者=低所得・低学歴の白人男性」というデータは存在しない。

具体的な数字を挙げるならば、共和党予備選挙が開始された16年1月のアイオワ州予備選挙直前に行われたフォックスニュースの調査ではトランプは全体の34%から支持を得ており、その支持者の性別に大きな偏りもなく、学歴は全体として非大卒が多い傾向があったが、大卒支持者からの支持率でも他の候補者と比べてトップの数字であった。

また、年収5万ドルを基準にして世論調査の回答者を分けた場合でも、5万ドル以上・未満のいずれの層においてもトランプの支持率は1位だった。つまり、トランプ支持者の実像は共和党支持者という「小金持ちのやや保守的な傾向がある人たち」と大きな乖離はなく、ほぼ一般的な共和党支持者たちと変わりがない。

むしろ、生粋のトランプ支持者とは、既得権を持ち腐敗した政治家らに反感を持っていることから、著名な経営者であるとともに事実上のタレント候補者であったトランプに期待した普通の有権者というイメージがピッタリである。

ヒラリーの個人的資質が最終的な勝敗を分けた

このような誤解は大統領選挙直後に流布された「隠れトランプ支持者が大統領選挙の勝敗を決めた」という都市伝説にも表れていた。一般的に、隠れトランプ支持者とは、本来はトランプに投票する意向であったものの、世論調査などでは自分自身の投票意向をカミングアウトせず(むしろヒラリー・クリントン支持を公言すらしながら)、実際はトランプに投票した人を指す。

ヒラリーの勝利を予想し報道していたメディアは、大統領選挙の開票直後から「隠れトランプ」が原因で予測が外れたという言い訳に飛びついた。TVコメンテーターなどが「私は最初から隠れトランプで勝負が決まると思っていた」と言い出す始末だった。

だが、この隠れトランプの存在は米国政治の状況を丁寧に追っている人にとっては眉唾ものであり、現在では米国ではほとんど支持されない仮説だ。選挙の翌年5月に米国世論調査協会が発表した報告書でも、隠れトランプの存在は根拠が薄いものとして棄却されている。

実際には世論調査に設計上の問題があり、調査に回答した有権者の大半は自分の支持する候補について適切に回答していたと想定されている。大統領選挙の勝敗を決めた要因は諸説あるが、筆者は大衆的な人気のないヒラリーの個人的資質が最終的な勝敗を分けたものと考えている。