産業革新投資機構の問題も根は同じ
経済産業省との対立が表面化した官民ファンド、「産業革新投資機構(JIC)」の問題もそこにある。経産省が「世界レベルの政府系リスクキャピタル投資機関を作る」という理念を打ち出し、それに賛同した日本を代表する金融人、経営者、学者が経営に参画して発足した。
ところが発足から2カ月あまりで、JICの取締役11人中、経産省と財務省の出身者2人を除く民間人9人が一斉に辞意を表明する事態に陥った。
きっかけは給与。成功報酬を含めて1億円を超す報酬体系を決め、世界に通用する人材を雇ったものの、「JICは国の資産を運用する機関で、高額報酬は国民の理解を得られない」という経産省が報酬案を白紙撤回、それに怒った民間取締役が辞表をたたきつけたというわけだ。
参画した社外取締役の経営者たちは、日本政府がリスクマネーを供給してイノベーションを起こす仕組みが作れる、と期待を寄せたようだが、経産省にはしごを外される結果になった。これも、どこまで「官」は口をはさみ手を出すべきなのか、官僚機構の基本的なあり方が定まっていない、ということなのだろう。
国民全体が「国への依存」を強めている
ともかく官僚機構が民間のやるべき分野にまで口を出し、人を送り込み、カネも出す、というのが今の日本。民営化したはずの日本郵政にしても、事故で事実上破たんした東京電力にしても、事実上国が過半の株式を保有する。「国の機関」化が進んでいる。
官僚機構が肥大化し、その人件費が膨らめば、最終的には国民がそれを負担することになる。5年連続で公務員給与が増えても、ほとんど大きな批判も反発も起きなくなった。そんな日本では、国民全体が「国への依存」を強めているように見えてならない。国からのおカネに頼る組織や企業、個人が増えていくということは、「タックスイーター」が増殖していることに他ならない。誰が「タックスぺイヤー」としてこの国の将来を担っていくのか。そろそろ真剣に考える時だろう。
経済ジャーナリスト
1962年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。日本経済新聞で証券部記者、同部次長、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長・編集委員などを務め、2011年に退社、独立。著書に『国際会計基準戦争 完結編』(日経BP社)、共著に『株主の反乱』(日本経済新聞社)などがある。