情報オープン化で、先端技術の中心に

現在、コイワイは3Dプリンターに関連する2つの国家プロジェクトに参加しています。1つは13年にスタートした砂型積層装置、もう1つは14年にスタートした金属粉末積層装置の国産化プロジェクトです。

それぞれに、装置・砂・ソフトウエアのメーカー、そして装置を使用する加工企業など民間企業数十社と、産業技術総合研究所、大学を含む多数の研究機関で構成されています。コイワイ以外の民間企業のほとんどは大企業です。

目的は、先行するドイツ製をはるかに凌駕する世界最高峰の装置を開発し、低価格で販売すること。日本のモノづくりの国際競争力を復活させるというものです。

気になるのは、コイワイが保有するドイツ製の装置よりも、大きさ、スピード、精度ともにはるかに高性能な装置を、5000万円以下で製造することを目標にしたプロジェクトだということです。もしそれが実現すれば、コイワイの先行投資が無駄になってしまいます。そのプロジェクトにコイワイが参加し、先行企業として培った技術や知見を提供している意味は何でしょうか。

ここにまさにオープンイノベーションの思考があります。本音でいえば、このような開発が進んでほしくないかもしれません。しかし、そうした技術が完成したとき、自分たちがそのプロジェクトにいなければ、次の時代には取り残されてしまう。そうならないためには、先端技術の中心にいるべきなのです。

「この技術が広まり、日本の技術者の方々の発想が3D化されてくると、既存の加工技術ではできない機能や形状が生まれてくる。そのとき、爆発的にこの技術が広まると思っています」。そのとき、コイワイはどのような企業に成長しているのか、今から楽しみです。

紀元前4000年からの「鋳造」技術を最新技術へ応用
●本社所在地:神奈川県小田原市
●代表者:小岩井豊己(1953年、長野県生まれ。75年小岩井鋳造所(現コイワイ)へ入社。85年代表取締役就任後、3D積層砂型工法、金属粉末積層工法に取り組む)
●従業員数:95名(2016年5月現在)
●沿革:1973年創業。現在は本社工場のほか、宮城県とインドを拠点に生産。16年11月期の売上高は20.9億円(前年比110%)
元橋一之
東京大学大学院工学研究科教授
1961年、大阪府生まれ。86年東京大学大学院工学系研究科修士課程修了後、通商産業省(現経済産業省)へ入省。93年コーネル大学経営大学院修了(MBA)。OECD、中小企業庁、一橋大学などを経て、2006年より現職。専門は計量経済学とイノベーションシステム論。
(構成=嶺 竜一 撮影=松本昇大)
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