シンガポール航空が世界最長の路線を再開させた。シンガポールのチャンギ空港と米ニューヨーク(ニューアーク空港)を結ぶ直行便で、飛行時間は18時間45分と旅客定期便では最も長い。シンガポール航空はこうした「超長距離路線」を増やしつつある。狙いはどこにあるのか。航空ジャーナリストの北島幸司が解説する――。
「A350‐900 ULR」は日本に乗り入れていないが、「A350‐900」を羽田で撮影した(撮影=北島幸司)

1回の飛行で300万円のコスト減が見込める新機材

今年10月、シンガポール航空が世界最長の定期路線を再開させた。このシンガポールのチャンギ空港と米ニューヨーク(ニューアーク空港)を結ぶ直行便は、2004年から13年まで運航しており、再開は5年ぶりとなる。直接の要因は「新型機材の導入」である。

IATA(国際航空運送協会)によると、エアラインの運航コストの中で一番比率が高いのは燃料費であり、その比率は運航経費のうち33%にもなる。航空燃料費の指針となるシンガポールケロシン価格で計算すると、中止したときの機材「エアバスA340‐500型」は4発エンジン機で、1回の飛行でおよそ1300万円の燃料費がかかる。これは決して燃費がいいとはいえない。

これに対し、今回は双発エンジン機の「エアバスA350‐900ULR」を投入している。従来機に比べると、燃費効率は25%ほど向上している。つまり燃料費はおよそ1000万円で済むことになり、1回の飛行で300万円のコスト削減が見込める。

双発エンジン機でも長距離航行が可能になった

背景には技術の進化がある。双発機の安全性が上がったのだ。4発エンジン機は、1発のエンジンが停止した場合でも、そのまま目的地まで運航が可能である。一方、双発エンジン機は1発のエンジンが止まればもう一方のエンジンだけの推力となり、著しくバランスが崩れるので、長距離航行に制限があった。

だが新型機「エアバスA350‐900ULR」は、航空当局から一方のエンジンだけになっても 6時間10分のうちに着陸できればいいという信頼性を得た機体なのだ。

燃費効率の高い双発エンジン機が開発され、最初にシンガポール航空に導入されたことで、世界最長距離路線は再開されたのだ。