ルノーから送り込まれる取締役の人数が重要

今後、ルノーがゴーン氏とケリー氏に代わる新任の取締役を送り込んでくるという話も出ているが、ここで送ってくる取締役が何人になるかで、その後の事態は大きく違ってくるだろう。

もし、ルノーが送ってくる取締役が1人であれば、もうひとり日産寄りの人間を取締役会に据えることで、ルノー寄りの取締役をマイノリティにすることができる。そうすれば、ルノーの株式を自由に買い増すことができるため、ルノーによる議決権の行使を防ぐ戦略を取れるのだ。

とはいえ、ルノーもばかではないから、株の買い増しには警戒をしているだろう。そのため、たとえば会長職をルノー出身者にする代わりに、取締役は日産側の人間が過半数になるようにしてもらうなど、微妙な交渉が必要だ。ルノー側から、交渉の過程で、「ルノー株式の買い増しはしない」といった約束を求められる可能性も十分考えられる。

ゴーンなき後の日産はどうなるか

日産としては、今後ゴーン氏の排除に向けてルノーと交渉を進めていくだろうが、「ゴーン氏がいなくなれば、日産はもとのオンボロ会社に戻る」といった声もあるようだ。しかし、私は違う意見をもっている。

日本では、「ゴーンがボロボロの日産を立て直した」と考えられており、たしかに私も就任後約5年間の再建手腕は評価しているが、見方が若干違う。なぜなら、日産はもともと技術的には決してボロボロの会社ではなかったからである。

ゴーンが日産の業績を回復できたのは、日産の官僚主義的な不合理を排除したことにあった。労働組合が強く、日産社員を下請け企業のトップに置くといった慣例もあり、合理的な経営判断が難しくなっていたところを、ゴーン氏の“性格の悪さ”を発揮して合理化を進めたわけだ。

しかし、同じことをゴーン氏がルノーで行ったとしても、成果はあがらなかっただろう。これはほとんどの人が見過ごしている点だ。なぜゴーン氏は日産を立て直したのに、ルノー本体は立て直せなかったのだろうか? これは日産とルノーの技術力の差によるものと考える。

だから、ゴーン氏がいなくなったとしても、日産は世界で戦える力を持っているはずだ。私自身、10年以上日産車に乗っているが素晴らしいと実感している。日産がイギリスに置くサンダーランド工場でも非常にいいマネジメントが育っており、そうした人材をうまく使えば、けっこうな経営ができるだろう。